2013 Fiscal Year Research-status Report
文化のグローバル化におけるローカル化および再グローバル化現象の民族誌的研究
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24617003
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Research Institution | Okazaki Women's University |
Principal Investigator |
白石 さや 岡崎女子大学, 子ども教育学部, 教授 (70288679)
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Keywords | ベルギー / ブリュッセル / ヘント / サンフランシスコ湾岸地域 / カリフォルニア大学バークレー校 / ジャパン・タウン / シリコンバレー / ICT企業 |
Research Abstract |
本研究は「文化のグローバル化」特にここでは戦後日本のマンガ・アニメのグローバル化ーー手塚治虫を中心とする戦後世代のマンガ家達によってイノベートされ、独自の新様式を持つコミックとなったマンガおよびアニメのグローバルな普及をさすーーの過程を調査研究する。研究実施計画の予定に従い、初年度に引き続き、当2年度においても、集中的に現地調査を行い、初年度に実施したイタリア、アメリカおよび2度にわたるスペインでの現地調査に続いて、新たにベルギーおよび米国サンフランシスコでの現地調査をおこなった。 ベルギー調査の目的は、近年になって急速に進行しているEU規模での書籍流通網の再編成が進行する中でのマンガ翻訳出版流通の状況を親しく調査することであった。現地調査の結果として、ベルギーは、EUの政治および情報網の中枢であり、EUの政治経済状況を大きく反映して揺れていること、同時に、比較的小国であり国内がオランダ語・フランス語・英語という複数言語のマーケットに分割されているという特有な状況にあることから、オランダやフランスにおけるマンガ・アニメ出版状況にも左右されて、専門店の浮沈が激しく、その分、ファンの間にはネット利用の拡大深化と強い訪日願望があることがわかった。 サンフランシスコ調査は、目覚ましい進化をとげているアメリカの西海岸調査として、初年度の東海岸ボルティモアのアニメ・コンベンション調査に続くものであった。成果として、サンフランシスコからベイエリア一帯にかけては、アメリカにおける日本および中国の諸文化の受入港としての江戸末期以来の伝統が今だ色濃く人々の日常生活の中に生きていること、その歴史的文化的文脈の中からマンガやアニメに関する逸早い理解者が登場し、英語圏へのマンガ・アニメ関連情報発信の役割をになってきたことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に引き続き、海外現地調査を実施し、目的に沿った成果と、それ以上に予期外の新しい知見とを得ることができた。 海外調査として主要にはベルギーとサンフランシスコ・ベイエリアとを調査した。ベルギー調査の目的は、近年のEU書籍市場における出版流通販売網の再編成を、EUの政治的中心としてベルギーにおいて調査することであった。現地調査の結果、一方でEUの政治的経済的動静からの影響をまともに受けて、出版社も本屋も浮沈が激しいこと、他方で、元来小さな国でありながらさらにオランダ語、フランス語、英語という複数言語のマーケットに分割されて、伝統的に流通分野の専門家が個人的に活躍する興味深い産業構造を保持していることがわかった。そのうえで、ベルギーはヨーロッパにおける子供向けコミック文化伝統の故郷でもあり、決してマンガ・アニメ・ファン一色ではない多様性が見られた。 サンフランシスコは、初年度の東海岸バルチモアのオタコン調査の対比を目的としていた。ICT産業の核であるシリコンバレーが近く、一方で日本文化のアメリカにおける最初の受入港としての江戸期以来の文化伝統が今も生きており、ICT産業とアジア文化を愛でる知識環境の両者の融合になる創造的受容が、人々の生活空間の中に息づいている。アメリカでの第一世代のアニメ・ファンの登場にとどまらず、英語圏の未来のマンガ・アニメ・ファンに向けての情報発信活動が活発に行われてきたこと、その活動の歴史的文脈の上にさらに新たな日本の文化的生産物の貪欲な受容が進行中であることが観察できた。
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Strategy for Future Research Activity |
1990年代以降に幾多の海外現地調査を実施してきたが、2000年前後にそれまでアジア・アメリカ中心であったものがヨーロッパにまで広がり、それがさらに10年を経て、表面的な受容から、より生活密着型のものとなり、深化してきていることが看取できた。それは各地での伝統的な文化と、マンガやアニメというメディアを通しての文化的メッセージとが融合し、各地の伝統と接点をもつ創造的な文化が生まれてきている。 世界のファンの多くにとってマンガもアニメも日常的にはデジタル文化として楽しまれているが、それを実体化するキャラクターグッズやマンガ本への希求も強く、アニメ・コンベンションはファンと文化産業と創作者とが一堂に会するファンダムの祭典として急速に広がり年中行事化している。そこではマンガやアニメに関する造詣が深く、独自の情報や分析を開陳するファンダムの高名なスカラーファンも登場し、ファンダムの構築と発展に貢献してきた。 このマンガ・アニメの日常化と、その一方での「マンガの国ニッポン』への憧憬とが、複雑な日本マニアを育てているだけでなく、マンガやアニメ産業への参加(ないし変革)を企図する世代が登場している。人も情報もモノもこれまでになく自由に交流し流通していながら、そのことが一層の渇望を生じさせているグローバル化の中での文化の動態を視野に入れていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以下のように詳細にみるとさまざまの個別の事情があるが、一般には交通費、宿泊費、人件費、謝金ともに、予算額よりも大幅に安い実費ですませることができた。これは最終年の3年度にさらなる海外調査を実施したく、(1)務めて旅費の節約を図ったこと、マンガやアニメに関連する人々がビジネス関連も含めて、(2)謝金を固辞するケースがあったこと、特に大きかったのが、海外調査での(3)通訳や翻訳・アポイントメントの調整・街中での案内等々のアシスタント役を果たしてくれた人々への謝金支払いにおいて、マンガやアニメのファンでもある学生などが、ボランティアで援助してくれたケースがあり、人件費と謝金とを節約できた。 個別には2013年度ー2014年度に任務校を移籍したため、移籍に伴う時間調整の為に、予定していた海外調査をすべては実施できなかった。 上記の理由にあるように、3年度に、さらに海外現地調査を続行したい。昔の文化人類学的調査と異なり、このポピュラーカルチャーの調査は、半年で各地の状況が変化するのが実態であり、リピートする必要がある。 近年にマンガ・アニメのマーケットとして、刻々と変化しているヨーロッパ、むしろ大きく構造的な動きを見せるアメリカ、初年度と2年度に手薄であったアジア地域ともに、時間の許す限り調査をしたい。 さらにこの間に集めた膨大な資料やデータの本格的な整理を進めるため、保管場所の確保が必要である。
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Research Products
(8 results)