2012 Fiscal Year Research-status Report
皮膚振動の視覚的フィードバックを用いた発声訓練手法の開発
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24650088
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
北村 達也 甲南大学, 知能情報学部, 教授 (60293594)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 音声 / 発話 / 皮膚振動 / 発話訓練 / 歌唱訓練 / レーザードップラ振動計 / 言語聴覚士 / 声楽家 |
Research Abstract |
まず,頭部固定用治具をつけた椅子を製作した.これによって,被験者が座った状態で皮膚振動パターンを計測することができるようになった. この椅子を用いて,複数人のプロの声楽家を対象に歌唱時の皮膚振動パターンを計測した.これには昭和音楽大学の協力を得た.声楽家は歌唱時の身体感覚を独特の表現を用いて表すことができる.このような身体感覚とそのとき声楽家の身体で生じている物理現象との対応関係を解明することができれば歌唱メカニズムの解明や歌唱の訓練などに応用することができる. スキャニング型レーザードップラ振動計を用いた計測の結果は以下の3点である.第1に,皮膚振動パターンは母音により異なり,母音/i/では鼻周辺および頬の振動速度が大きいことが示された.これは母音/i/発話時には口腔内音圧変動が高いことが原因と考えられる.第2に,皮膚振動パターンは声の高さによって異なることが示された.高い声で歌った場合には前額の振動が増加した.被験者となった声楽家は「高い声はあてて出す必要がある」,「高い声は突き抜けるイメージ」と述べている.恐らくこれらの感覚は皮膚振動パターンと対応すると考えられる.第3に,裏声と地声の皮膚振動パターンは明確に異なることが示された.これは皮膚振動パターンが歌唱訓練に利用できることを意味している.この成果については日本音響学会秋季研究研究発表会にて発表し,大きな反響を得た. 次に,言語聴覚士が発話訓練で用いる発声法を対象にして皮膚振動パターンを計測した.2名の言語聴覚士を対象にした計測の結果,被験者たちの感覚と極めて良く一致した皮膚振動パターンを示すことが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,(1) 皮膚振動パターン計測手法の確立,(2) 発話障害患者データの収集,(3) 歌手のデータ収集,(4) 皮膚振動パターンの周波数特性の分析,の達成を目標とした. このうち,(1)に関しては,被験者が座った状態で頭部を固定することができる治具を開発し,安定した計測ができるようになった.(3)に関しては昭和音楽大学の協力を得てプロの声楽家を対象にした計測を行った.そして,その結果を周波数分析し,歌声の基本周波数の倍音において皮膚振動速度が大きいことを示した.従って,上記(4)も達成できた. (2)に関しては,本年度は発話障害患者の協力を得られることができなかった.しかし,患者の発話訓練にたずさわる言語聴覚士2名を対象にして計測を行うことができた.実際に発話訓練で用いられる発声法を対象にして計測し,そのデータが患者の発話訓練のみならず,言語聴覚士を目指す学生にとっても有用な可能性が高いことを確認することができた. 以上の成果から,本研究は順調に進展していると結論できる.
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は,(1) 皮膚振動パターンと頭頸部の内部構造との対応づけ,(2) 独特な用語との対応づけ,(3) 訓練における適切なフィードバックの検討,の3点を実施する計画である. (1)に関しては,磁気共鳴画像法(MRI)を用いて頭頸部の内部構造を計測し,体内の構造(空洞,骨,筋肉,脂肪)と皮膚振動パターンの現れ方との関係を調査する.すでに声楽家を対象としたMRI計測の準備を進めている. (2)に関しては,声楽家と言語聴覚士を対象にして彼らが用いる独特な身体感覚表現(例:「頭蓋骨を前後に広げるように」)と皮膚振動パターンの対応関係を調査する. (2)の結果を利用して,訓練時のフィードバック方法を検討する.患者を被験者にすることは困難であることがわかったので,一般学生を被験者にした実験を実施予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は,レーザードップラ振動計を用いた皮膚振動パターン計測に利用する.本年度は発話障害の患者を対象にした計測を行うことができなかったため,次年度に一般学生を対象にした実験を行う.具体的には,皮膚振動パターンあり/なしのケースで発話訓練で用いる発声法を言語聴覚士が被験者に教え実験を行い,皮膚振動パターンが発声法の習得に有効であるか否かを調査する.
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Research Products
(3 results)