2012 Fiscal Year Research-status Report
スパコン等の並列計算環境を用いた野球選手の評価手法に関する研究
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24650404
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | National Agency for the Advancement of Sports and Health |
Principal Investigator |
大澤 清 独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター, スポーツ科学研究部, 契約研究員 (60601135)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ハイパフォーマンスコンピューティング / オペレーションズリサーチ |
Research Abstract |
平成24年度は野球選手の勝率に対する貢献度を測るために野球における様々なプレーをモデル化し,選手の各種成績をそのモデルに当てはめてどの程度その成績が勝率に影響しているかを定量的に評価した. 具体的には,野球の試合中にとり得る状態(無死一塁や一死二塁,二死満塁など)を定義した上で打撃成績,走塁成績,相手の守備成績を考慮に入れて状態間の遷移行列を選手ごとに定義し,マルコフ連鎖を用いて1イニングに挙げる得点の期待値,9イニングに挙げる得点の期待値(延長戦に対応するために10~12イニングまで計算する),与えられた2チームの得点の期待値から得られる両チームの勝率を計算する.ここでいう勝率は一般的に使用されている勝利数と敗戦数から得られる値ではなく,上記計算を行って得られる得点の確率分布から得られる「試合終了時に相手の得点を上回る確率」を指している.この勝率が,ある選手の打撃成績を一定の値だけ向上させた場合にどの程度向上されるかを計算することで,その選手の勝利に対する貢献度を測ることが可能となる. 今年度は先行研究で計算に使用されている一般的な打撃成績(凡打,安打,本塁打など)をより細分化し,例えば凡打ならば三振や二塁ゴロ,センターフライ,安打ならば内野安打,レフトへの二塁打等のように打球を処理した野手まで区別した打撃成績を利用し,かつ相手守備選手の成績(通常捕球あるいは失策,それぞれの場合における相手走者の進塁状況)を計算に組み込み,選手の貢献度を評価した.その結果,シーズン最多失策を記録した三塁手は,別の守備能力の高い三塁手に比べてシーズンの勝利数換算で2試合分勝率を下げていることが示された.このように守備成績が勝率に与える影響を測ることが本年度の研究により可能となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では二つの並列計算環境上(GPUクラスタ,スーパーコンピュータ)に提案したモデルに基づく計算を行うプログラムを実装することを目標としているが,平成24年度は本科研費で調達・設置したGPUクラスタに関してはプログラム開発環境の整備や基本的な演算の実行テストにとどめ,スーパーコンピュータ(東京大学情報基盤センターに設置されたFX10スーパーコンピュータシステム,以下,FX10システム)のアカウントを取得して主に同システム上で数値実験を行った. FX10システムでは並列計算環境として一般的に用いられているMPI(計算ノード間の並列化に利用されるインタフェース)とOpenMP(計算ノード内の並列化に利用されるインタフェース)が用意されているが,本研究課題で利用するプログラムはPOSIX Threadsとよばれるインタフェースを利用してより計算ノード内の並列化効率を高めることを目指し,その実装を行った.並列処理特有の排他制御(あるプログラムが利用しているデータを他のプログラムが利用しないようにする等)を本実装においても適切に行う必要がありその部分の作成に時間を要したが,インタフェースを適切に配置して動作させることにより希望する並列処理が可能となった. その結果,上記概要に記した守備成績が勝率に与える影響の評価や,平成25年3月に開催された野球の国際大会(WBC)における日本代表の最適な打順をFX10システムの計算ノード96台を利用して約2億1千万通りの打順から選ぶことが可能となった.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は並列化したプログラムを実装しさえすれば比較的容易に高い計算性能が得られるスーパーコンピュータを主な計算環境として数値実験・性能評価を行ったが,次年度以降はGPUクラスタ上にも同様の処理を行うプログラムを実装することを目標とする. ハードウェア(GPU)の性能を引き出すにはその構成を意識したプログラムを作成する必要があるため,様々な検証を行いながらプログラムの実効性能を理論性能に近付けてゆく.GPU自体は近年並列計算の分野で注目を集めているデバイスではあるが,スーパーコンピュータと比較するとその処理能力(FLOPS値)は小さくなる.ただ,GPUを利用するメリットとして費用対性能の値が非常に高くなるため,スーパーコンピュータの値と比較してその有用性を検証する. また現状のモデルでは,選手の各種結果は一試合を通じて常に同じ確率で現れると仮定しているため,犠打や盗塁等の僅差の試合でその出現頻度が高まると考えられるプレーに関してはモデルに組み込まれていない.そのためこれらの成績をモデルに反映させる手法について検討し,さらに現状のモデルでは打者の打撃成績のみを用いているため,投手の成績が考慮されていない.そこで投手成績についてもモデルに反映させる手法を検討する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題で調達したGPUクラスタは,デバイスとしてのGPUを2基あるいは4基搭載している製品が一般的である.申請段階ではGPUを4基搭載したクラスタを想定していたが,実際に交付された金額からGPU2基搭載のクラスタを調達することとなり,結果的に未使用額が発生した.平成25年度以降,GPUクラスタの処理能力を向上させるためのGPU増強や,その他のデバイスの変更等にこの未使用額の利用を予定している. また,平成24年度に引き続き東京大学情報基盤センターに設置されたFX10スーパーコンピュータシステムのアカウントを取得し,最大で96台の計算ノードが使用できるサービスを利用する(25万円/年). その他,関連分野の研究者と情報や意見を交換するために学会への参加を予定し,それに要する費用として15万円を見積もる. またスポーツ工学,情報工学に関する知識を深めるための関連書籍の購入費用,GPUクラスタの制御用に購入したPCの関連部品やその他消耗品の購入費用として10万円程度を見積もる.
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