2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24650586
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小田 寛貴 名古屋大学, 年代測定総合研究センター, 助教 (30293690)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 哲也 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (80261212)
|
Keywords | 年代測定 / 青銅器 / 緑青 |
Research Abstract |
青銅器の放射性炭素年代測法を確立するためには,三種の課題を解決する必要がある.一つ目は,青銅器に発生した緑青から炭素を抽出する「緑青の化学処理法の開発」である.二つ目は,緑青に含まれる炭素が形成時の大気中炭素を保持していることを示す「緑青の安定性の実証」.最後に考古学的年代既知の青銅器資料への適用による「青銅器に対する放射性炭素年代測定の有効性の実証」である.本年度までに,「緑青の化学処理法の開発」および「緑青の安定性の実証」を行った. まず,硫酸銅と炭酸ナトリウムの反応を利用して,処理法の開発に必要となるDead carbonに富む緑青を合成した.その放射性炭素年代は14290~14800[BP]であり,処理法の開発に利用できる合成緑青であることが示された.この緑青を用いて,緑青から炭素を二酸化炭素の形で抽出する条件を求め,真空中において250℃以上かつ1時間以上加熱することで,緑青中の炭素が二酸化炭素に変換されることが判明した.以上の結果を元に,「パイレックス管中に緑青を真空封入し,250℃で2時間加熱し,二酸化炭素に変換する.次いで,この二酸化炭素を精製し,水素によって還元することで年代測定用のグラファイトを合成する」という緑青の化学処理法を開発した. さらに,和歌山県日高川町道成寺に伝わる銅鐸に付着した緑青について,上記の調製法を適用し,グラファイトを得た.この銅鐸の考古学的な年代は弥生時代後期である.一方,緑青について得られた放射性炭素年代は241~324[cal AD]であった.すなわち,弥生時代後期から古墳出現期にかかる年代である.故に,この銅鐸に最初に発生した緑青がそのまま現在まで残っているという緑青の安定性が実証された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までに実施予定であった「緑青の化学処理法の開発」および「緑青の安定性の実証」は,完了している.すなわち,「緑青の化学処理法の開発」については,「パイレックス管中に緑青を真空封入し,250℃で2時間加熱することで二酸化炭素を抽出し,次いで,この二酸化炭素を水素によって還元することで年代測定用のグラファイトを合成する」という具体的な化学処理法が開発されたことで達成された.また,弥生後期という考古学的年代の判明している銅鐸にこの緑青調製法を適用し,241~324[cal AD]という結果が得られたことで,「緑青の安定性の実証」がなされた. 「緑青の安定性の実証」では,孔雀石・藍銅鉱の年代測定も予定していたが,未完了である.それは,CuCO3・Cu(OH)2という緑青と同じ組成式でありながら,250℃で分解しない(原子間の化学結合に相違がある)事実が確認され,その条件解明に時間を要するためである.故に,地球化学の面では予定をやや遅れている. しかし,和歌山県日高川町道成寺に伝世する銅鐸についての放射性炭素年代測定を実施した.考古学的な考察から使用年代は弥生時代後期と推定された.その銅鐸について測定を行い,241~324 [cal AD],すなわち,弥生時代末期から古墳出現期にかかる年代を得た.この年代は,青銅器が使用され廃棄ないし埋納され,緑青が生成した年代であり,銅鐸の使用年代より,やや新しい時代の結果が得られている.しかしその誤差を考慮すると,青銅器への放射性炭素年代測定法の適用が可能であることを示している.また,実際の青銅器に放射性炭素年代測定法を適用した最初の事例であり,文化財科学の面では,本研究はH26年度予定の分まで予定以上の進展をしている. 上記の二点の評価と,本研究の本質的な目的が,後者にある点を考慮すると,区分(2)と評価するのが適切と考えられる.
|
Strategy for Future Research Activity |
H26年度は,「青銅器に対する放射性炭素年代測定の有効性の実証」を推進する.すなわち,和歌山県日高川町道成寺に伝世する銅鐸についての実施したことと同様に,年代の判明している考古資料に放射性炭素年代測定を実施する.また,弥生後期という古代の資料だけではなく,中世および近世・近代という,考古学ないし歴史学的に年代の判明している青銅器を収集し,その緑青についても,放射性炭素年代測定を行う.具体的には,北海道上磯郡知内町出土の湧元古銭・中国に伝世した世界最大の紙幣大明通行寶鈔の青銅版・大同大学の化学実験室の水道管に発生した緑青などである.また,これら以外の考古資料・歴史資料についても収集し,その放射性炭素年代測定を実施する. 得られた結果と考古学ないし歴史学的な年代とを比較することで,青銅器に発生した緑青へ放射性炭素年代測定法を適用することで,その青銅器の使用年代・埋納年代ないし廃棄年代を求めることが可能であることを実証する.また,孔雀石・藍銅鉱という緑青と同じ組成式CuCO3・Cu(OH)2をもつ鉱物についての放射性炭素年代測定を実施する.そのために,まずは,孔雀石・藍銅鉱が分解し,二酸化炭素を放出する化学的な条件を解明するという当初予定になかった新たな研究にも取り組む.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度末に役務提供を計画していたが,年度末の繁忙期で高額であったため,より低金額の閑散期であるH26年度前半期へ変更した. 直接経費の次年度使用額分は,H26年度前半に上記の役務提供に使用する.そのため,H26年度の研究費は,当初の計画通りに使用する.
|