2012 Fiscal Year Research-status Report
マレーシアにおける女性の表象-女性器切除をめぐる言説の政治-
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24651289
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
井口 由布 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 准教授 (80412815)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ジェンダー / マレーシア / FGM / イスラム / 多文化主義 / 家父長制 / 表象の限界 / 西洋中心主義批判 |
Research Abstract |
本研究の目的は、マレーシアにおいて女性がどのように表象されてきているのかを、植民地主義、ナショナリズム、多民族社会、イスラムとの関係で明らかにすることである。とりわけ着目しようと考えているのは女性器切除(female genital mutilation, FGM)にかんする言説の政治である。本研究は、前近代的で非人道的な実践としてFGMを批判することや、伝統的な価値観としてこれを擁護することを目的としていない。むしろ、FGMがどのように問題として構築されたのかを歴史的にたどることによって、これを近代的な問題としてとらえなおし、開発主義、イスラム復興主義、多文化主義などが入り乱れる現代マレーシアの政治に位置づけなおすことをめざしている。初年度は、1)この問題にかんする資料がどの程度あるかについての確認と、2)この問題をどのような理論的な枠組みで行うかについての検討についやした。1)について、WHOの報告書などを中心にマレーシアだけでなく、その他の地域におけるFGMの実践についての資料を収集した。マレーシアにおいてもマレー語文献をふくめた資料の収集を行った。その結果ある程度見えてきたのは、医学的な視点からの論文が数編あるだけでマレーシアにおいてFGM問題がトピックとしては不在であるという状況であった。2)については、ア)フェミニズムや科学的言説における西洋中心主義への批判という観点、イ)近代的家父長制的実践としてのFGMという観点、ウ)経験の固有性と表象不可能性という観点から理論的な検討をすすめた。フェミニズムにおける家父長制やセクシュアリティの研究だけでなく、イスラムとジェンダーにかんする最近の批判的研究やインドにおける研究、さらには表象不可能性にかんする研究なども検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度は資料収集とその読み込みを中心に行った。WHOなどの資料は順調に収集できたが、マレーシアでの収集が思ったよりはかどらなかった。おもに三つの理由がある。一つ目に、研究代表者は以前にマラヤ大学に所属しており、図書館のシステムについても知っていたつもりであったが、図書館が改装され所蔵場所やシステムがずいぶん変更していた。そこでこれまでより非効率な調査になってしまった。二つ目として複写の問題がある。調査にいったマラヤ大学では、マレーシアに関する資料が中央図書館ではなくザッバ記念図書館に所蔵されている。この図書館では複写がほとんどできず、デジタルカメラの持ち込みも不可であったため、基本的に自分の手で書き写さなければならなかった。日数的にも限られていたため、思ったより資料が収集できなかった。三つ目はマラヤ大学の独特なOPACシステムである。大学のOPACで事前にほしい資料を調べてはいたが、マラヤ大学の場合掲載のしかたが独特で、著書の章までタイトルとして表示されていた。そのため所蔵場所などがよくわからず、ライブラリアンの指摘でやっと理解できた状態であった。そのため、リストの作成を現地でやり直さなければならなかった。著書によっては医学部図書館や法学部の図書館に所蔵されており、効率的な収集が進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成25年度においては次の5点を中心に行う。1)初年度で収集した資料を読み進めていくこと、2)収集しきれなかった資料を収集すること、3)理論的な枠組みを整理、4)学会における口頭発表を行い、論文の執筆のための最初のステップとする。5)ジェンダーと表象にかんする研究者のネットワークを構築する。2)については、イスラム推進局(Jabatan Kemajuan Islam Malaysia)を中心としたイスラムの言説についてまだ収集が進んでいない。また、ブログやツイッター上での情報収集も行いたいと考えている。3)研究代表者は基本的にはFGMをセクシュアリティにかんする近代的な家父長制的支配とみている。しかしながら、上野千鶴子は、近代的な家父長制が女性の性的快楽を不在のものとしているのにたいして、FGMの実践が女性の快楽を前提にしているとの指摘を行っていた。女性の性的快楽をどう見るかということにおいて質的な違いがあるのであるとすれば、それは何を意味しているのか検討しなければならない。また、デリダのいうマークの経験といったものとの関係において、男性の割礼とFGMを同様に議論することができるのかどうかといったことにかんしても検討をしなければならない。4)11月のIAAPS (International Association for Asia Pacific Studies)において最初の口頭発表を考えている。5)ジェンダーにかんする研究会、学会などに自身の口頭発表だけでなく積極的に参加する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
大きくは以下のように研究費を使用しようと考えている。1)引き続き資料収集を進めるための図書費。2)自分自身が直接出張せずに資料の収集をアルバイトなどを利用するなどして効率的に行う。そのための謝金として使用する。2)7月に行われるカルチュラル・スタディーズ学会など、最新のジェンダー研究、文化研究の動向をさぐり、研究者のネットワーク形成のための国内旅費。3)口頭発表のための英語原稿の校閲のための謝金。4)フィリピンで行われる国際学会IAAPSでの口頭発表のため海外旅費。
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