2013 Fiscal Year Research-status Report
マレーシアにおける女性の表象-女性器切除をめぐる言説の政治-
Project/Area Number |
24651289
|
Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
井口 由布 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 准教授 (80412815)
|
Keywords | マレーシア / FGM / 女性器切除 / 女性 / 表象 / イスラム / マレー / 多民族社会 |
Research Abstract |
本研究は、マレーシアにおいて女性がどのように表象されてきているのかを、植民地主義、ナショナリズム、多民族社会、イスラムとの関係から明らかにしようとするものである。本研究はこのことを、女性器切除female genital mutilation (FGM) をめぐる言説から読み解こうとしている。本研究はFGMを近代的な問題としてとらえなおし、第三世界の女性をめぐる政治のなかに位置づけることを目的としている。 本研究ではFGMを理論的な観点から接合することを試みている。第一におこなっているのは女性のセクシュアリティを家父長の所有物としてみなすという家父長制との関連である。第二に検討しているのは、FGMの実践がじつのところ女性の性欲を認めているという指摘である。第三は、身体と境界という観点から考察したときのFGMである。第四に、他者の表象と代表という観点である。 国際社会は1970年代からFGMにかんして問題にしはじめ、1995年の北京女性会議や当事者女性たちによる自伝によってじょじょに、問題として広く知られるようになっている。経済成長を果たし政治的にも安定しているマレーシアにおいても、FGMはマレー半島北部を中心に実践されている。とはいえその実態はあまり知られていない。マレーシアにおけるFGM実践が報告された初期の例は『ホスケン・レポート』(1982年)であろう。マレーシアの国内からは、管見のかぎり医学的な側面からの論文が1999年と2010年に発表されている。そのほか北部にあるケダ州の保健局がFGMの調査報告をだしている。また2009年にFGMにかんするファトゥワがイスラム推進局からだされている。これらから、マレーシアのなかでFGMにかんして調査や研究がなされ、FGMが言説として編成されていくのは2000年に入ってからということがわかってきた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の課題は、1)マレーシアにおけるFGMにかんするあらゆる表象を集めること、2)理論的な問題と接合すること、3)成果発表を行い、第三世界と女性の表象にかんするより大きな研究への準備を行うことである。1)のなかでもFGM全般にかんしては、平成24年度と25年度をとおして、国際機関による研究や個別の研究者による研究、当事者女性たちによる手記、FGMをあつかった小説などさまざまなものを収集することができた。 他方マレーシアにかんしては、公的な言説におけるFGMが思ったより見つかっていない。研究代表者は、平成24年度と25年度に一度づつマレーシアを訪れて資料収集を試みたが、いずれのときにおいても公的な資料の収集は進まなかった。医療的な観点からが数点、FGMについてエジプトで70年代後半に問題化したナワル・エル・サーダウィにかんする文学批評が一点、宗教との関係では、FGMがイスラムの実践として合法なのか違法なのかという点から2009年にファトゥワとその関連言説があった。これらのほかには、インターネット新聞の記事などが散見される。これらの諸表象のほとんどがこの20年間になされていることから、公的な言説として登場してきたのがどうやら最近であることが理解できる。 2)理論的な問題との接合では、フェミニズムにおける家父長制論、身体論、セクシュアリティ、欲望、快楽、医学や生権力などの諸議論からの接合を試みているところである。ただしマレーシアにおけるFGM表象があまりみえてきていないため、全体的なところからのFGM表象と理論の接合は進んでいるが、マレーシアという問題ではいまだ途中の段階である。3)1)の段階が進展していないため、成果発表はできていない。しかしながら、過年度に出席した学会においてジェンダーにかんする諸分野の研究者たちとのネットワークはじょじょにできつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は3つの観点から行っていく。1)マレーシアにおけるFGMにかんする諸表象のさらなる収集。2)理論的な接合。3)成果発表。1)にかんしては、上でも示した通り、マレーシアにおけるFGMがどのように表象されているのかいまだつかめきれていない状態である。ここまでのところでわかったことは、FGMにかんする公的な言説は研究をふくめてまだ少ないということである。まずは各州(とりわけ北部のクランタン、ケダ、プルリスなど)の保健局の報告書をさがしてみる。つぎに、ペナン・メディカル・カレッジの研究者やマレーシア国民大学の研究者ともコンタクトをとり、医学的な言説とフェミニズムや文学的な言説をふくめて動向を調査したい。最後に、インターネット上の非公式な言説などにも着目してマレーシアにおけるFGMにかんする諸表象を集めていきたい。2)家父長制論、身体論、セクシュアリティ、欲望、快楽、他者表象にかんする諸議論を整理し、ポスト植民地主義や開発といった議論との関係を検討する。3)平成26年度中に口頭でも発表を試みる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度中に資料収集を行ったが、マレーシアにおけるFGMにかんする著者や論文が英語マレー語をふくめて十分に出版されていないことが判明した。FGMが、非人道的な実践として問題視されている一方で、宗教や伝統という問題と複雑にからみあっているためであると考えられる。研究目的であるマレーシアにおける女性器切除をめぐる言説の状況を探求するためには、公的な言説だけでなく非公式的な言説によりいっそう重きをおく必要がでてきた。そこで今年度行う予定だった成果発表を見送ったため、未使用額が生じた。 次年度は現地での追加調査を行い、さらに成果発表を行うこととし、未使用額はその経費にあてることとした。現地での追加調査では、1)これまでにえられた資料を手がかりとして、ペナン・メディカル・カレッジやマレーシア国民大学の研究者たちからの聞き取り、2)マレーシア政府ではなく州政府の記録の収集、3)非公式的な言説の収集を行いたい。
|