2013 Fiscal Year Research-status Report
古代ギリシア・ローマ美術史における「祈り」の図像に関する社会学的考察
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24652018
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
長田 年弘 筑波大学, 芸術系, 教授 (10294472)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
篠塚 千惠子 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (80279801)
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Keywords | 美術史 / 古代史 / 西洋古典 / 考古学 / 宗教学 / キリスト教 / 神話 / 哲学 |
Research Abstract |
古代ギリシア・ローマ美術史において、片手ないし両手を上げる仕草は、広い意味での「祈り」を表す図像として知られる。この身振りは、ギリシア美術において元来、命乞い等の「嘆願」の仕草としてしばしば用いられ、女性、子供などの社会的弱者による「臆病な」振る舞いを表していた。しかし同様の図像は、ギリシア時代の「崇拝」の図像を経て、ローマ時代の「祈り(オランス)」図像に帰着する。 ネガティブな「嘆願」が、ポジティブな「祈り」に転用された現象を解明し、古代における「祈り」図像の成立について、しばしば祈りの主体として表された女性像を手がかりに女性学の立場から照明を当て、新しい社会学的な問題提起を試みた。 (1) 2013年6月30日に、早稲田大学戸山キャンパス39号館2219教室において、第1回研究例会を行った。研究発表は右記のとおり。中村友代(実践女子大学文学部助教)「留学を終えて。トルコ踏査報告」田中咲子(新潟大学)「研究動向紹介:古代ギリシアにおける老年―墓碑浮き彫りを中心に」中村るい(東京藝術大学)「パルテノン彫刻の受容 -日本の美術大学の場合―」その後ディスカッションを行った。研究協力者も含めて、参加者は次のとおり。長田 年弘 小堀 馨子 坂田 道生 篠塚 千恵子 高橋 翔 田中 咲子 中村 るい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)2013年6月30日の第1回研究例会において、中村友代の発表により、トルコの代表的な遺跡と考古博物館における調査の内容を検討し、主にリュキア葬礼美術、およびアレクサンドロス美術に関して、死生観と英雄観と崇拝、祈りについて討議を行った。田中咲子の発表により、古代ギリシア葬礼美術と墓碑浮彫に関する討議を行った。中村るいの発表により、古代ギリシアにおける神観と儀礼に関する討議を行った。 (2)アルゴ会との共催により、研究代表者と研究協力者が参加し、2014年2月1日、早稲田大学戸山キャンパス39号館4階第4会議室において、討議と研究打ち合わせを行った。その際に行った研究発表は次のとおり。山岸亜友美(新潟市美術館学芸員)「アッティカ陶器画における花嫁姿-ヘレネ図像の鑑賞者と需要」浅川英理子(法政大学兼任講師)「『タウリケーのイーピゲネイア』1462-7をめぐるアルテミスへの奉納品について」。
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Strategy for Future Research Activity |
古代ギリシア・ローマ美術史における、広義の「祈り」(「嘆願」、「崇拝」、「オランス」)図像について、作例の検討を進める。特にギリシア時代の「嘆願」と、ローマ時代の「オランス」に、女性を「祈り」の主体とする作例数が非常に多いことに着目し、社会的弱者の「祈り」と、道徳等の社会規範との関わりに目を向ける。小堀馨子(古代宗教史)は専門的見地から参加し、「命乞い」などのネガティブな価値判断を与えられた「嘆願」図像が、「敬虔さ」を表すポジティブな「崇拝」および「オランス」図像に転用された現象について、「婦徳」等の社会学的観点から検討を行う。突破口となるのは、各作例における「祈る者」の特定と思われる。近年の、「古代宗教と女性」に関する非常に活発な議論を背景に、篠塚千恵子と中村るいによる女性学に関わる研究を軸に進める。古代ギリシア美術史、古代ローマ美術史、古代ローマ宗教史のそれぞれの専門家による共同研究とし、古代における「祈り」の概念成立の解明を試みたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度は、小堀馨子が夏期に英国において研究を行い、田中咲子、中村るいが、海外出張を行う予定であった。小堀に関しては予定どおり研究を遂行したが、田中と中村については、研究を進める過程で、海外研究者との討議を経て研究成果を2014年度に報告書の形式によって発表をする方が今後の研究に重要と判断された。研究協力者二名の、年度当初の海外出張に関しては変更するにいたった。 海外研究者との討議を経て、研究成果を2014年度に報告書の形式によって成果発表をすることにより研究を進展させることができると判断されるため、報告書の刊行を進める。また小堀馨子その他の研究協力者による海外出張を行う。
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Research Products
(13 results)