2012 Fiscal Year Research-status Report
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24652141
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤目 ゆき 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60222410)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 連合国対日占領 / 占領軍被害補償 / 進駐軍被害者連合会 / 中安甚五郎 / 調達庁 / 被爆者援護 / 空襲訴訟 / 戦後補償 |
Research Abstract |
本年度は、全日本調達庁労働組合や進駐軍被害者連合会・米軍公文書などの資料の収集・分析を行った。 第一に、全日本調達庁労働組合は1950年代末に占領軍被害補償請求運動と結びついて全国的な実態調査を実施した。その調査票は、被害状況の詳細、事件後の占領軍・日本政府からの対応、被害者とその遺族が受けた心理的・社会的・経済的ダメージやその後の暮らし、現在の心境・考えなどが詳しく記入されている。調査票は北海道、関東,東北,中部、関西、中国,九州、沖縄と地区別にファイルされており、ファイルには合計1311件の調査票や資料、回答者からの私信などが綴じてある。本年度は、呉市と岩国市を中心とする中国エリア、神奈川県を中心とする関東エリアおよび大阪府を中心とする関西エリアに焦点をしぼり、占領軍被害の年表および地図の作成に取り組んだ。 第二に、進駐軍被害者連合会に関する資料収集を行い、関係者への聞き取り調査を開始した。占領軍被害補償請求運動は広島県呉市から始まり、1959年の全国進駐軍被害者連合会結成までに19の都道府県に被害者の会が組織されている。この全国組織と地方組織の両方に自由法曹団が法律家の立場から関与していた。本年度は、これらの組織の議事録、通信、名簿などをふくむ多数の貴重な資料を収集して分析を開始し、特に広島県呉市において中心的や役割を果たした中安甚五郎氏(故人)に関連して関係者の聞き取り調査を実施した。 第三に、米国国立公文書館などに所蔵され公開されている連合国側の資料を収集し、全日本調達町労働組合や進駐軍被害者連合会の資料と照らし合わせ、被害状況を立体的に分析する取り組みを開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画していた内容を基本的に達成することができた。さらに、当初の計画以上に進展しているのが次の2点である。 第一に、科研の研究課題に取り組む研究組織であるアジア現代女性史研究会の中に占領軍被害に関する研究チームを組織し、院生や市民からの参加を得て、中国エリア、関東エリア、関西エリアを中心に全日本調達庁労働組合の調査票から基本データの入力を実施することができた。これらの調査票は史料的価値が大きい一方、多くの個人情報をふくんでいるため、そのままの形で復刻・刊行することはできない史料である。個人情報保護に配慮したデータ入力を行ったことによって、一般に公表する道が拓けたと考える。 第二に、朝鮮人被爆問題を研究している韓国・漢陽大学の梁東淑氏・広島の朝鮮人民族団体・ひろしま女性学研究所の協力を得て、中国エリア、とくに岩国市および広島市・呉市など広島湾地域において朝鮮人をふくむ占領軍被害に関する証言収集を開始することができたことである。占領軍による事故・事件の人身被害は総体がほとんど一般に知られていない状況だが、とりわけ在日朝鮮人に関しては、日本人以上に文書史料が乏しい。全日本調達庁労働組合の調査票や新聞報道などに記録がある場合でも、日本名で記録されているなど、被害状況の把握が難しい。これに対して、地域の在日朝鮮人史に関する研究者や研究機関と協力することによって、系統的な聞き取り調査に着手することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究を推進する方策として、第一に、2012年度の研究成果をふまえて、全日本調達庁労働組合の調査票をはじめとする資料のデータ入力と分析、中国エリア・関東エリア・関西エリアを中心とした証言記録の収集を継続する。その過程で、占領軍被害の年表および地図を作成する。 第二に、占領軍被害補償問題に関する思想史的検討を行う。占領軍被害補償は、第二次世界大戦期の戦争被害に関する戦後補償と日米安保体制下の米軍による事故や犯罪の被害に対する補償との間に位置している。だが占領軍被害者の救済のための立法が行われた時点では苦境にある被害者たちの可及的速やかな救済が主眼となり、補償理念に関しては必ずしも公論が広く形成されたわけではなかった。よってこれらの補償をめぐって表れた言説や掲げられた理念を研究し、戦後日本の戦後補償をめぐる思想史の中に位置づることをめざす。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(5 results)