2013 Fiscal Year Research-status Report
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24652141
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤目 ゆき 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60222410)
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Keywords | 全日本調達庁労働組合 / 占領軍被害 / 調達庁 / 国家補償 / 全国進駐軍被害者連合会 / 中安甚五郎 / 斉藤直喜 / 原爆被害者援護法 |
Research Abstract |
占領軍被害に関する諸事実を把握して全体像に接近するために、第一に連合国対日占領下の占領軍による事故・犯罪の概況、第二にGHQと日本政府による対応、第三に占領軍被害者の補償請求運動の展開について調査を実施し、成果をあげた。占領軍による事故・犯罪の概況を把握するために、全日本調達庁労働組合が行った地区別調査を分析し、北海道、中部、中国,九州の4地区に関して基本的なデータ入力を完了した。GHQと日本政府による占領軍事故・犯罪への対応に関しては、調達庁部内の執務の参考として刊行されていた『調査時報』および国会議事録を精査し、その成果を小論「連合国占領軍の事故・犯罪による人身被害」(『平和研究入門』)にまとめた。占領軍被害補償運動に関しては、この運動が広島県呉市から始まったことから広島県公文書館において行政史料を収集するとともに、運動組織の会長であった中安甚五郎氏の遺族を訪問してインタビューを行うとともに訴訟資料を提供していただいた。また、全国進駐軍被害者連合会の事務局長であった斉藤直喜氏を訪問してインタビューを行い、関連資料を提供していただいた。これらの成果の一端も前掲の小論に発表した。 また、占領軍被害とそれに対する補償がいかなる問題と認識されたのかに関して国家補償思想史の観点から考察するため、外国の事例との比較研究および日本国内の戦争被害に対する国家補償の歴史に関する資料を収集した。外国に関しては、第二次世界大戦後の連合国によるドイツ占領および南朝鮮における米軍政と国連軍による朝鮮戦争下の北朝鮮の一部地域の占領などについて資料を集め、韓国の金貴玉氏や梁東淑氏ら、共通の研究課題をもつ研究者と研究交流を行った。日本の国家補償史に関しては、戦時災害保護法、原爆被害者援護法、民間戦災者の補償請求運動、アジア諸国の被害者に対する補償請求運動などに関連して先行研究の収集・分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2013年度の開始にあたって、第一に地方新聞や都道府県図書館に残されている新しい資料の探査と収集の実施、第二に進駐軍被害補償請求運動の関係者からの聞き取り調査の実施を計画した。これらの計画はすべて基本的に達成することができた。また、文献史料収集と聞き取り調査を行う過程で、当初の予想を超えて研究が進んだ点もあった。第一は、予期しなかったことに北海道新聞が占領軍被害に関する記事の連載(8月上旬に「米軍が進駐した札幌」、12月上旬に「米軍が進駐した札幌」)を行うことになり、この取材に対する協力によって研究成果を社会に還元し、それととともに北海道新聞から貴重な情報の提供を受けたことである。また、この新聞連載を契機として、2014年以後の目標と考えていた史料の公刊に関する準備を早めることになり、関係者間の協議が進み、公刊を射程にいれたデータの入力も進捗した。第二は、これまで長く岩国の占領軍と駐留米軍に関して共同で研究してきた韓国の梁東淑氏が外国人特別研究員として採用され、2013年11月から「広島で被爆した朝鮮人女性に関する歴史的研究」という研究課題に取り組むため来日することになり、これまで以上の研究協力・合同調査が可能になったため、在日朝鮮人占領軍被害者に関する研究に大きく一歩を踏み出すことができたということである。占領軍被害者の中の在日朝鮮人は資料の中に通名で記載されていることが多いため、朝鮮人であると識別することが困難である。が、在日朝鮮人研究を開始した梁東淑氏の協力によって早速12月の調査においても広島で占領軍に人身被害を受けた朝鮮人に関するデータを発見することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は最終年度にあたるので、2012年度・2013年度に実施した調査を継続・発展させ、全国・各地の資料の分析・研究を行って総合し、被害の全国的状況、補償請求運動の全体像、補償をめぐる言説と思想などに関する研究成果を報告書にまとめる。報告書に必要な内容として計画している研究領域は次のとおりである。第一に、占領軍被害が全体として社会的に認知されていないことをふまえて、占領軍被害を研究する意義・研究の視点・方法を明らかにすること、第二に、労務に関連する事故・車両事故・刑法犯罪など多様な占領軍による事故・犯罪の全体像をわかりやすく呈示できるように、地区別の統計や年表などを作成・収録すること。第三に、占領軍被害を第二次世界大戦期の戦災・日米安保体制下の駐留米軍被害の間に位置するものとして日本史の流れの中に位置づけて考察し、連合国対独占領・米国の朝鮮占領といった同時代の軍事占領下の人身被害とこれに対する補償問題との比較史的検討を行うこと、第四に、戦時災害保護法・原爆被爆や一般戦災者に対する援護法・アジア諸国戦争被害者に対する補償問題など他の戦争被害補償に関する議論を参照し、占領軍被害補償をめぐる議論との位相と相互連関を明らかにし、日本の戦争被害に関する補償思想を考察すること。また、研究報告書の作成と同時に、占領軍被害をめぐる一次資料の発掘を継続し、それらを資料として集成し公刊するための準備を行う。占領軍人身被害の史料群は、膨大な数にのぼる。それらを歴史資料として集成し公刊することは、占領期を民衆史・地域史の観点で洗いなおし、戦後補償問題を再考するためにも大きな社会的意義がある。
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Research Products
(10 results)