2012 Fiscal Year Research-status Report
ブラジル日系移民および在日日系ブラジル人の民俗学的研究
Project/Area Number |
24652174
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
佐野 賢治 神奈川大学, 経済学部, 教授 (90131127)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / ブラジル / 日系人 / 移民 / 民具 / 物質文化 |
Research Abstract |
平成25年1月3日より14日までブラジル国サンパウロ近郊およびレジストロにて日系移民の特に物質文化に焦点をあてた調査をおこなった。調査には、研究代表者のほかに、オーラルヒストリー、建築学、民族誌をそれぞれ専門とする連携研究者3名が日本から、通訳を兼ねて文化人類学者1名が現地から参加した共同調査であった。 レジストロでは海外興発株式会社(KKKK)にて展示品を含め初期移民の生活用具のすべての目録を収集し、入植地に残る移民家屋9軒を実地調査して建築の構造および未収集のまま放置されている生活品の状況を確認した。その後、レジストロ日伯文化協会に日系年長者4名を招き、往時の入植地での生活について集中的に聞き書きをおこなった。また、サンパウロではブラジル日本文化福祉協会(文協)に収蔵されている日系移民の生活用具を確認し、目録台帳をすべて撮影して複写を入手した。大型の物品は郊外の国士舘大学スポーツセンター内倉庫(サンロッケ市)に別置されていたため、同倉庫まで赴いて保管状況を確認した。また、やはりサンパウロ近郊のモジ・ダス・クルーゼス市管内では製茶工場跡を見学した。日系移民の主要産業を支えてきた当工場は廃業後の老朽化が進んでいたが、文化財としての復元が進行中であり、今後の日系移民の物質文化遺産の保存・継承の在り方として本共同研究においても注目しておくべきである。これらの調査地に加え、沖縄系移民が集住する市内ビラカロン地区で若干の資料収集と聞き書き調査をした。 以上のようにブラジル日系社会の中心的機関および主要な入植地が管理している研究資料(生活用品の現物および収蔵目録データ)について網羅的に情報を収集し、全体を俯瞰できる視座を組み立てる準備ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ブラジル日系移民の調査には内外の研究者による長年の蓄積があり、邦語文献に限っても先行研究は豊富である。また、ブラジル調査中の訪問先では近年も日本から研究者が頻繁に訪問していると聞いた。しかし、同時に、民家の構造や、とくに生活用具のような物質文化に焦点をあてた調査の協力依頼は前例がないということも一度ならず告げられたことから、本研究が新しい研究領域を拓くものであることを再確認することができた。この点を踏まえたうえで、ブラジル日系社会の中心的機関である文協と、主要な入植地で且つ現在まで日系社会の共同性と地域社会における明確なプレゼンスを維持したレジストロ市が所蔵管理あるいは把握している研究資料を俯瞰できる段階に研究を進めることができたことは、初年度の活動の主要な目的を達成できたということができる。ただし、当初計画していたボリビア国内の日系人入植地の視察と、神奈川県内の日系ブラジル人集住地区での調査は、それぞれ予算上の困難と日程調整の問題により実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の第2年度の前半では、初年度のブラジル調査で収集してきた撮影画像および聞き書き録音を整理し、研究資料として円滑に利用できるような体裁を整える。具体的には、前年度調査に参加した連携研究者および海外共同研究者からそれぞれ寄稿を募り、『比較民俗研究』誌上の特集として活字化して中間報告とする。ブラジルにおいて或る程度まとまった研究資料の存在が確認できたことと、予算上の制約とを考慮して、ボリビアでの調査は当面見送り、ブラジルについての収集情報の拡大と、国内での調査研究とを積極的に推進する。具体的には、少人数でレジストロでの補足調査をおこない、国内では横浜移民資料館、海外移住と文化の交流センター(神戸)、満蒙開拓平和記念館(飯田)などの機関を利用して、ブラジル調査で得た資料の理解を促進するための情報を収集し、資料としての質を向上させその有用性を高めたい。同様の目的で、後半には、海外共同研究者が来日する予定があるので、この機会に、南米日系移民研究者および在日日系ブラジル人識者を招いて本研究の更なる発展可能性を検討するシンポジウムを開催する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ブラジルでの補足調査に必要な外国旅費として600千円、国内の関係諸機関での調査に必要な国内旅費として100千円、神奈川大学でのシンポジウムの運営費として300千円を使用する。
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