2012 Fiscal Year Research-status Report
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24653020
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
香川 崇 富山大学, 経済学部, 准教授 (80345553)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 民法 / 時効 |
Research Abstract |
平成24年度は、ヨーロッパ人権裁判所における消滅時効に関する判例を検討する前提として、ベルギー憲法院における消滅時効に関する判例とその影響(特に時効法改正)について検討した。 1996年10月22日のヨーロッパ人権裁判所判例(CEDH, 22 oct. 1996.)では、ヨーロッパ人権条約6条(公正な裁判を受ける権利)と、イギリス法における故意不法行為に基づく損害賠償訴権の消滅時効の関係が問題とされた。その前年である1995年、ベルギー憲法院判例では、公正な裁判を受ける権利ではなく、ベルギー憲法10条(法の下の平等)・11条(差別の禁止)と短期消滅時効期間の関係が問題とされた。 ベルギー民法典2262条は、原則的な消滅時効期間を30年としていた。しかし、刑事訴訟手続に関する1878年4月17日の法律26条は、1961年5月30日の改正によって、附帯私訴権の消滅時効期間を犯罪行為から5年と定めた。この消滅時効に関しては学説上の批判があった。1995年3月21日のベルギー憲法院判例は、通常の損害賠償訴権が30年の消滅時効にかかるのに対して、附帯私訴権だけが5年の消滅時効にかかることを正当化できないとして、同法律26条が違憲であるとした(C. const., 21 mars 1995.)。 違憲判決を受けて、時効に関する諸規定を改正する1998年6月10日の法律(以下、1998年法という)が成立した。1998年法は、人的訴権の時効期間を10年に短縮した(民法典2262条bis 1項)。そして、附帯私訴権の消滅時効が民法典の諸規定に従うこととし、人的訴権のうち契約外の民事責任に関する損害賠償訴権は、被害者が損害若しくは損害の悪化、並びに民事責任を負う者の同一性を認識した時点から5年、損害を発生させる事実がなされた時点から20年の時効にかかるとした(民法典2262条bis 2項・3項)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、消滅時効に関するヨーロッパ人権裁判所の判例とそのヨーロッパ諸国への影響を研究することとしていた。この課題のうち、ヨーロッパ人権裁判所判例(CEDH, 22 oct. 1996.)を検討するための分析視角を得るために、ベルギー憲法院判例(C. const., 21 mars 1995.)の意義とその影響を検討した。 その結果、消滅時効に関するベルギー憲法院の判例が、一般の時効期間である30年と特別の時効期間である5年の期間の差異に着目し、時効制度それ自体を違憲とするのではなく、短期の消滅時効期間のみを違憲としていることを明らかにした。憲法院判例を受けて制定された1998年法は、消滅時効制度自体を存続させた上で、契約外の民事責任に関する損害賠償訴権が5年の消滅時効にかかるとした。この時効期間は違憲とされた附帯私訴権に関する消滅時効の時効期間と変わらないものであった。しかし、1998年法は、その消滅時効の起算点につき、権利者の権利行使の現実的期待可能性を考慮した。すなわち、被害者が損害若しくは損害の悪化、並びに民事責任を負う者の同一性を認識した時点が起算点とされた。 以上の研究を通じて、消滅時効の合憲性の検討に際しては、①消滅時効制度そのものの合憲性と②消滅時効上の諸規則(ベルギーでは消滅時効期間に関する規則)の合憲性という二つの段階での考察が必要であることが明らかとなった。また、これらの考察においては、消滅時効制度においてどのような形で権利者の権利行使の現実的期待可能性が考慮されているのかも検討すべきであることも知ることができた。このような分析視角は、ヨーロッパ人権裁判所判例を検討する上で重要なものである。したがって、平成24年度の研究によって、消滅時効に関するヨーロッパ人権裁判所の判例の検討のために必要な分析視角を得ることができたといえよう。
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Strategy for Future Research Activity |
ベルギー憲法院判例とその影響に関する検討で得た分析視角に基づいて、ヨーロッパ人権裁判所における消滅時効に関する判例(CEDH, 22 oct. 1996.)を検討し、更に同判例のヨーロッパ諸国への影響について検討する。 ヨーロッパ人権裁判所における消滅時効に関する判例は、イギリスの消滅時効に関するものであるから、イギリスの消滅時効制度並びにこの判例がイギリスにおいてどのように理解されているのかを明らかにする必要がある。また、このヨーロッパ人権裁判所判例で問題となった権利は、故意不法行為に基づく損害賠償訴権であったので、これと関連する過失不法行為に基づく損害賠償訴権の消滅時効制度についても検討を行う。 また、この判例が、イギリス以外の他のヨーロッパ諸国(特にフランス)において、どのように影響を与えているのかを検討する。このヨーロッパ人権裁判所判例は性的侵害に関する事案であった。ヨーロッパ諸国がこのような事案についての消滅時効につきどのような改正を行ってきたのかを検討することとしたい。 また、今年度からは、イギリスの取得時効法に関するヨーロッパ人権裁判所の判例(CEDH,15 nov. 2005 ; CEDH,30 aout 2007.)とイギリスの取得時効法改正への影響についても研究する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
イギリスの消滅時効法・取得時効法関連の文献を収集し、分析を行う。富山大の図書館にはこれらの文献がないため、購入できるものは購入し、購入できないものについては他大学図書館に出向いて収集する。そして、ヨーロッパ人権裁判所判例がヨーロッパ諸国に与えた影響を調査するために、フランスの文献を購入し、検討する。 これらの検討の際に、わが国での研究状況も調査する必要があるので、これらの法律に関連する和書も購入し、検討する。
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