2012 Fiscal Year Research-status Report
メモリー・スタディーズのモデル構築に向けた領域横断的研究-東アジアを事例として
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24653120
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
葉柳 和則 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 教授 (70332856)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
才津 祐美子 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (40412613)
渡辺 貴史 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (50435468)
南 誠 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 助教 (70614121)
保坂 稔 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (80448498)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 社会学方法論 / 地域研究 |
Research Abstract |
1980年代の末以降人文・社会科学において展開されてきた集合的記憶に関する諸研究(メモリー・スタディーズ)を、社会学なアプローチを軸にして1つの理論-調査モデルに統合し、領域横断的な記憶研究の基盤を構築するための、研究体制の整備と予備調査を行った。 背景とする専門分野を異にするプロジェクトメンバーが、他のメンバーの専門領域における理論と技法を理解し、領域横断的な調査モデルを相互の対話の中で構築していくために、1ヶ月に1回の研究例会を開いた。 研究例会の開催と並行して、予備的な調査に着手する。長崎市をフィールドとして20世紀の記憶に関する語り継ぎの現場における参与観察を行った。予備調査に先立って、関連テーマを研究している院生5名程度を研究会メンバーとして加え、調査スキルのトレーニングを行った。 本研究グループは、平成20~21年度は長崎大学環境科学部内の研究プロジェクト、平成22年度以降は長崎大学重点研究課題の一環として、本科学研究費を申請している。それ故、重点研究課題に関連した研究成果ののうち、本科学研究費に対応している部分を成果として挙げる。シンポジウムとしてはまず第一に、第8回海港都市国際シンポジウム「東アジア交流圏の構想と海港都市の経験」を開催した。同国際シンポジウムでは, 本重点課題の「持続可能な東アジア交流圏の構想に向けて」, 海港都市の経験がいかなる意義を持つのかについて議論した。第二に、国際シンポジウム「移動と記憶の日中比較研究」を開催した。第三に、「日中間の知的交流に関する学際的研究:長崎と上海をめぐる学術共同研究の試み」を開催した。出版物の形では、「東アジア共生プロジェクトワーキングペーパー集」において2編、日中社会学会『21世紀東アジア社会学』第5号に5編を公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した研究目的のうち、(1)「集合的記憶に関する学際研究の方法を確立する」については研究例会において滞りなく達成できた。(2)「これまでの調査データや資料を、方法論に焦点を当てて再検討する」については研究例会とシンポジウムにおいて広く議論した。(3)作り上げた調査モデルにもとづいて、長崎市をフィールドとした予備的調査を行う」については、被爆体験と軍艦島に関する聞き取りおよびメディア調査を行った。(4)「予備調査に先立って、関連テーマを研究している院生5名程度を研究会メンバーとして加え、調査スキルのトレーニングを行う。院生メンバーが個々の専門領域以外の研究領域の基本的知識を習得するための勉強会を必要に応じて開催する」に関しては、本学から参加する院生2名に加え、神戸大学から派遣された院生を対象にして、ワークショップ形式で実施した。(5)「フィールド先の調査協力者、自治体関係者、他機関所属の研究者等と綿密な連絡を取り、平成25年度以降の調査が円滑に行えるよう準備作業を行う」は滞りなく実施した。(1) ~(4)に関しては、月例の研究例会と上記したシンポジウムにおいて口頭発表を行い、メンバー外の研究者も含めた意見交換の機会を持った。さらに既に論文として公開しうると判断した成果については、ワーキングペーパーとして公開、あるいは学会誌に投稿し掲載された。 年度後半にメンバーの1名が妊娠、産休のため当初の予定よりも緩やかなペースで研究を進ざるをえなかったこと、調査スタッフとして参加予定の院生が後期に私的事情で休学したこと、研究代表者が資料収集のための出張を学内業務との兼ね合いから平成25年度に延期せざるをえなかったことから、データの収集については、当初の予定に比して40日程度の遅滞が生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究成果を順次公表し、他の研究者を含めてその再検討と研究方法・体制の修正を行う。まず上半期に、公開の研究例会を開催し、研究の方法と分析結果の妥当性を検討する(開催責任者:葉柳)。それを踏まえて下半期に、メンバーが個別に学会発表を行い、意見交換に努める。それをフィードバックさせる形で、各メンバーの研究計画とプロジェクト全体の枠組みの再検討を行う。 平成24年度の実施しえなかった資料調査を実施するともに、当初予定されフィールド調査を実施する。長崎調査においては、被爆体験の継承活動をめぐる調査に加え、1974に海底炭鉱が閉山した端島(通称:軍艦島)の記憶をめぐる調査、長崎市の神ノ島および外海地区におけるカトリック信者たちの語る20世紀の記憶と信仰の変容についての調査を開始する。これについては日本、韓国、中国、台湾の社会学者が参加する「海港都市国際研究ネットワーク」の共同研究として実施することを提案中である。 東アジアにおける「記憶との共生」について論じるためには、たとえば長崎の20世紀についての記憶が別の諸地域においてどのように表象され、共有されているかを確認する。ずは東アジア諸地域の教科書や歴史書を資料として、長崎の原爆被災に関してどのような記述がなされているかを調査する。その上で、大学生と市民を対象にして、長崎についての都市イメージについての聞き取り調査を行う。 また、当初の予定にはなかったが、アジア諸国の市民が原爆被災をどのような出来事として記憶、認識、意味づけているかを調べるための意識調査を実施する(実施自体は26年度を予定)ための予備調査を、韓国をフィールドとして行う。中国に関しては日中関係の変化によって実施の可否を検討する。現在、韓国海洋大学(釜山)、韓神大学(ソウル)の社会学研究者と連絡を取り、実施の可能性と質問紙の翻訳について検討を行っている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究成果を順次公表し、他の研究者を含めてその再検討と研究方法・体制のブラッシュアップを行う。定期的に公開の研究例会を開催し、プロジェクトメンバーのみ成らず国内外の研究者を招へいし、研究の方法と分析結果の妥当性を検討する。また、プロジェクトメンバーが学会に参加し24年度の成果を口頭発表する(学会発表旅費:30万円、国内外の研究者招へい費:20万円) 前年度未完遂の資料調査に加え、長崎をフィールドにした質的聞き取り調査を実施する。長崎調査においては、被爆体験の継承活動をめぐる調査に加え、1974に海底炭鉱が閉山した端島(通称:軍艦島)の記憶をめぐる調査)、長崎市の神ノ島および外海地区におけるカトリック信者たちの語る20世紀の記憶と信仰の変容についての調査を開始する(20万円) 東アジアにおける「記憶との共生」について論じるためには、たとえば長崎の20世紀についての記憶が別の諸地域においてどのように表象され、共有されているかを調査する(場所:釜山、韓国海洋大学との共同実施。30万円) 調査の本格化に伴い、プロジェクトメンバー、ステークホルダー、院生スタッフの間での綿密な連絡調整を行う必要が生じることに伴う事務局機能の強化のためのパート雇用(30万円)。
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Research Products
(18 results)