2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24658253
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 康之 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (50553434)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ワクチン / 細胞性免疫 / 抗原 / Reverse vaccinology / リーシュマニア症 |
Research Abstract |
本研究では、防御に細胞性免疫を必要とする感染症においてワクチン抗原としての有用性に寄与するパラメータをコンピュータ解析により同定することを目的としており、本年度はまず、細胞性免疫を必要とする感染症のモデルとして細胞内寄生原虫Leishmania majorに対する防御抗原として報告のあるタンパク14種を総プロテオーム(~8,000種)と比較して防御能に関連するパラメータの探索を行った。解析の結果、分子量、等電点、親水性、N末シグナル配列、膜貫通領域、GPIアンカー領域などの性質はワクチン抗原としての有用性に有意に寄与しないことが明らかになった。一方、発現量、アミノ酸構成(K, N, R, L)、exosomeへの局在が有意な因子となることを明らかにした。アミノ酸構成に関しては特定の配列パターンに優位性は見られず、MHC等抗原提示分子との結合に必要な特定のモチーフが頻出しているというよりも、単に個々のアミノ酸の出現頻度が免疫反応に影響を与えていることが考えられた。次に、これら3変数を用いてワクチン候補を選抜する数式を作成したところ、14の既知抗原中12が候補グループに該当し、また総プロテオームの4.8%にあたる403タンパクがそのグループに該当した。哺乳動物宿主タンパクとの相同性による更なる選抜を行い、ワクチン候補分子を全体の2.1%にあたる176個にまで絞り込むことに成功した。それら候補のうち、既に10個程度のタンパクについては組換え体を作製しており、その抗原性についてL. major感染マウス由来の血清や脾細胞を用いて検討を行ったところ、多くのタンパクが抗原性を有することについて確認が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の当初目的である、細胞性免疫を必要とする感染症においてワクチン抗原としての有用性に寄与するパラメータについて既に3つのパラメータを同定している。さらに、それら3つのパラメータを組み合わせることによりワクチン抗原と総プロテオームをより明瞭に区別することを可能とした。これらの解析のためにExcelベースの演算プログラムやRuby等言語プログラムを独自に作成しており、今年度の成果はコンピュータベースの抗原探索として類を見ない成功を修めたと言っても過言ではない。さらに、当初主に次年度に行う予定であった組換え体の作製についても順調に進んでおり、既に10種程度について組換え体が得られている。一方、本年度中に予定していたNeural Net Representationによるパラメータ探索については計画通り行っていない。ただ、理由として既に同定したパラメータが既に強力であり、当面は動物を用いた実証を優先させるために現在得られているパラメータのみで組換え体作製の候補絞り込みを行うこととしたことが挙げられる。以上のことから、本年度の研究目的の達成はおおむね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、我々の作成した抗原探索手法によって選抜されたタンパクが実際に防御効果を有するのかについて、作製した組換え体を用いてマウスチャレンジモデルによる評価を行う。原虫に対する抵抗性を付与するためにはTh1タイプの免疫を誘導することが必須であるため、本研究ではToll-like receptorアゴニストをベースとするTh1誘導型アジュバントGLA-SEを使用する。過去に細胞性免疫型ワクチン抗原のコンピュータ探索手法については若干の報告があるもののいずれにおいても実験動物モデルを用いた検証が全く行われていない。このようなチャレンジングな状況の下、本研究では50%以上の新規候補タンパクがマウス感染モデルにおいて防御能を示すことを目標と設定する。 KとRは少なくともマウスにおいてはMHCとの結合に重要であると知られているアミノ酸残基ではなく、現時点ではKとRが多い少ないという関係が細胞性免疫における免疫原性・抗原性に寄与するという報告は全くない。このことについて詳細に解明するために免疫学におけるモデル抗原として良く使用されるOvalbumin (OVA)を用いる。OVAにはKが20残基、Rが15残基存在しており、これをひな形としすべての塩基性アミノ酸をKにしたタンパク(OVA-K)とRにしたタンパク(OVA-R)を作製する。それらをマウスに接種した際の免疫原性やTh1/Th2のバランスを抗体価、抗体のサブクラス、サイトカイン(IFN-γ、TNF-α、IL-2、IL-4、IL-10)の発現等の解析により明らかにする。また、塩基性アミノ酸の割合が原虫感染時における宿主の抗原特異的免疫反応に影響することが予想されるため、本研究ではOVA、OVA-K、OVA-R遺伝子導入L. major原虫を作出し、それぞれをマウスに感染させOVAに対する免疫反応のTh1/Th2バランスを試験する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度はコンピュータ解析による抗原の探索およびその作製が中心であり、当初消耗品として、遺伝子クローニングおよび大腸菌組換え体発現・精製に関連する分子生物学的試薬の予算を計上していた。これまでに作製した組換え体についてはクローニングから発現まで予想より問題なく行うことが出来ており、予算額より少ない金額で本年度の研究を行うことが出来た。一方、平成25年度はin vivo解析が中心であり、免疫学的試験に関わる抗体(抗IgG抗体、サイトカインELISA用抗体、FACS用抗細胞表面マーカー抗体等:1本約3万円x15種類)が研究の遂行に必要であり、またワクチンの評価試験や免疫学的解析には実験動物であるマウス(1匹あたり約3,000円+餌、床敷きなどの維持費)の使用が不可避であり、100匹前後の使用を計画している。その他消耗品としてL. majorの培養に関する試薬(FBS、培地等)や、組織培養フラスコ、培養プレートなどの培養目的、またELISAプレートやコニカルチューブなど免疫学的・分子生物学的実験に必要なプラスチック製品を計上する。研究成果の公表を目的として、平成25年度に国内学術集会での発表(日本獣医学会学術集会を計画中)にかかる旅費、および学術誌上での発表にかかる経費(1報あたり約10万円x2報)を計上する。このように、本年度の研究遂行が順調であったため、次年度には予想を上回る研究実施と成果報告が必要である。そのため、当初配分額の130万円を超える経費が必要になることから、引き続き研究を円滑に遂行するためには本年度予算の次年度使用が不可欠である。
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Research Products
(4 results)