2013 Fiscal Year Research-status Report
廃棄される柿の蔕の天然資源としての可能性に関する研究
Project/Area Number |
24659056
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
石井 康子 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (00106436)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梅原 薫 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (40185070)
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Keywords | 柿蔕 / 柿 / 吃逆 / しゃっくり / 天然資源 / 神経伝達物質 |
Research Abstract |
柿の蔕は、柿蔕湯として吃逆(しゃっくり)に用いられる生薬で、民間薬としてばかりでなく、医療施設においても化学療法を受けているがん患者や脳梗塞の既往がある高齢者等の持続性・難治性吃逆の治療に使用されている。しかし、吃逆が、マウス・ラットでは観察されず、適当な実験動物が無いことから吃逆に関する基礎研究はほとんど行われていないため、柿蔕の作用機序や有効成分を明らかにするためには、臨床現場における症例が貴重な情報源となると考えられる。当初、特定の医療施設において、柿蔕液を処方された吃逆患者を対象に、その効果を後ろ向き、更には前向きに調査を行ってきた。しかし、柿蔕液の処方に施設間差があることが分かったため、静岡県下の医療施設で処方調査を行ったところ、柿蔕液の調製濃度だけでなく服用法も施設によって差があることが明らかになった。しかも、その処方の根拠は明示されていない。そこで、柿蔕液の調製濃度と効果との関係から適応症例を明らかにすることを目的に、静岡県下で柿蔕液の調製を行っている施設の中から、調製濃度が“最も高い”・“最も低い”・“その中間”にあたる3施設を選び、柿蔕液の効果を後ろ向きに調査することにした。選択した3施設並びに所属大学の研究倫理委員会に研究申請を行い、平成26年3月に総ての施設から研究承認を得ることが出来、調査を開始している。更に、この調査結果を踏まえ、改めて最も調製濃度が低い施設を対象に前向き調査も行い、解析結果を検証する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
より活性が高い柿蔕から活性物質を単離するために、様々な産地・品種の柿を探索の対象とするばかりではなく、入手がし易い完熟期に加え、商品として流通しない摘果時の柿の蔕も試料としたいと考えた。しかし、当初柿の蔕の入手を予定していた静岡県農林技術研究所 果樹研究センターの協力が得られず、各柿の産地のJAや個人的な知り合いを通し、農家にご協力を頂いて柿の入手を行ったことにより、柿の収集とその後の処理に、当初考慮していなかった多大な時間を費やした。また、吃逆が一般的な実験動物(マウス・ラット)では再現できないため、臨床症例から活性成分を探索のための情報を得たいと考え、柿蔕液を投与された吃逆発症患者を対象に、医療施設での調査を行うことにした。しかし、研究協力が必須であった医療施設の薬剤部の理解を得ることに加え、研究機関では無い一般病院の倫理委員会から研究承認を得るのに長期間を要し、本年度中に調査を開始することが出来なかった。 また、サンプルの収集や調査研究の開始に時間を要したことで、探索の指標となる神経伝達物質を特定するための動物実験条件の再検討が十分に行えなかった。更に、選択した神経伝達物質の一つであるsubstance P のERISAによる測定系に問題がある(Clin Vaccine Immunol. 13(11),1197-203(2006))ことが分かり、LC-MS/MS法での測定を試みたが、感度が十分でなく測定対象試料(血液・脳脊髄液) への応用は困難であったことや、柿葉や未熟果に比べ柿蔕に関する研究報告が少なく、動物実験条件の再検討に必要な情報が乏しかったことも研究の遅延に影響した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.調査研究については、準備が整い、調査を開始することが可能となったため、3施設における調査症例数が揃い次第、吃逆の発症原因に対する柿蔕液の処方内容と効果との関係を解析し、柿蔕の活性成分探索研究に生かしたいと考えている。更に、前向き調査も行うことで解析結果の検証も行い、得られた成果を臨床現場に還元し、柿蔕液の使用の適正化を図る予定である。 2.吃逆反射は、吸気運動(横隔膜収縮)と声門閉鎖運動(声門閉鎖筋運動)が協調して起こるものであり、横隔膜の痙攣だけでは発生しないと考えられることから、柿蔕中生理活性成分の探索の指標として、両運動に関わる要素を検討することにした。そこで、脳内GABA抑制系、ドパミン神経系に及ぼす影響に加え、サブスタンスPを候補とした。しかし、サブスタンスPの生成にはドパミンが関わっていることから、既に検討を行っている脳脊髄液(CSF)中アミノ酸やカテコールアミンの測定を行うことで、評価が可能であると考えられるため、今後は、これらに絞って検討を行うことにより、遅れている研究の推進を図る予定である。 3.柿葉や柿ポリフェノールには、血圧低下作用があることが知られており、その機序の一つとしてACE阻害作用が報告されている。嚥下反射や咳反射の低下による嚥下障害を、ACE阻害剤がサブスタンスPを上昇させることで改善することから、柿もサブスタンスPに影響を及ぼし、これら反射等と関わる可能性も考えられる。柿には他にも様々な生理活性があることが報告されているが、主に未熟果や葉を対象としており、蔕に関する研究はあまりなされていない。そこで、蔕の吃逆以外に対する効果についても検討を行い、本研究の推進に有益な情報を得たいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
一般病院の倫理委員会から研究承認を得ることが困難で、調査研究の着手が遅れた。更に、調査研究申請や実験材料である柿蔕の入手・加工に長時間を要したことで、活性成分探索指標選択のための動物実験に遅延を生じ、活性成分の探索が進まなかったことからも、次年度使用額が生じた。 医療施設における調査研究ならびに動物実験計画の変更に伴う柿蔕中活性成分探索研究の推進に充当する。
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