2012 Fiscal Year Research-status Report
吸入麻酔薬は本当に受容体結合薬物であるのか:ホタル発光酵素のカロリメトリー
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24659698
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
松木 均 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 教授 (40229448)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
玉井 伸岳 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 講師 (00363135)
後藤 優樹 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 助教 (30507455)
西本 真琴 和歌山工業高等専門学校, 物質工学科, 助教 (70609057)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ルシフェラーゼ / 吸入麻酔薬 / 長鎖脂肪酸 / アデノシン3リン酸 / 示差走査熱量測定 / 等温滴定熱量測定 / 圧力摂動熱量測定 / 特異的および非特異的相互作用 |
Research Abstract |
麻酔薬の作用機序は、その発見より150年以上経った現在でも解明されていない。麻酔理論はこれまでに様々に変遷したが、現在では、麻酔薬は生体膜内のある特定の受容体に結合する薬物であるとするタンパク受容体説の見解が体勢を占めている。そもそも、このタンパク受容体説の起源は、ホタル発光酵素ルシフェラーゼ(FFL)と言うタンパク質が示した高い麻酔薬感受性にあるが、その真偽は未だに不明である。本研究は、FFL-吸入麻酔薬間に働く真の相互作用を高精度なカロリメトリー(熱量測定)と構造解析データを組み合わせて調査するものである。 初年度は、麻酔薬および基質・拮抗阻害剤結合によるFFLの構造安定性(フォールデング・アンフォールディング)への影響を追跡した。麻酔薬として吸入麻酔薬の一種であるクロロホルム、FFLの基質としてアデノシン3リン酸(ATP)およびFFLの拮抗性リガンドとしてデカン酸を選択し、これらリガンドの非存在下および存在下のFFL水溶液に対し、示差走査熱量(DSC)測定を行った。 ATP非存在下では、ミリモルオーダーのクロロホルム添加によりFFLはアンフォールドし、マイクロモルオーダーのデカン酸添加により逆にフォールドした。過剰のATP存在下では、劇的にFFLのリガンド感受性に変化が見られ、ATP非存在下の約1/10濃度のクロロホルム添加によりFFLはアンフォールドし、1/5濃度のデカン酸添加により劇的なフォールドが起こった。 これまでになされた過去の研究において、ATPの存在の有無がFFLの麻酔薬感受性が影響を与えることが指摘されていたが、今回、このATPに依存したFFLの麻酔薬感受性を熱的に捉えることができ、また、FFLの拮抗性リガンド感受性は麻酔薬感受性とは全く逆方向になることを初めて明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究計画においては、DSC測定と等温滴定熱量(ITC)測定を相補的に実施し、両者のデータからリガンド添加によるFFLの構造安定性の変化とリガンドの結合様式(結合熱・結合等温線)を評価する予定であった。ここで、DSC測定における構造安定性のデータを参考してITC測定におけるFFL濃度とリガンド濃度を決定する予定であったが、リガンドの選択にやや時間を要した。 本研究では、当初、文献に報告されている吸入麻酔薬(ハロセンやイソフルランなどの比較的疎水性の強い麻酔薬)および拮抗性リガンド(ミリスチン酸やパルミチン酸などの長鎖脂肪酸)を用いて実験を行ってきたが、これらのリガンドは水溶性が低く、そのまま添加するのが困難でメタノールなどの有機溶剤に溶解して添加していた。その場合、溶液中のFFLに局所的な変性が生じたり、あるいは有機溶剤の二次的なFFLへの影響など幾つかの問題点が発生した。それらの問題を解決するために、幾つかの麻酔薬と拮抗性リガンドに対して予備的な実験を行い、有機溶剤を必要しないで実験可能な疎水性が若干低い麻酔薬と脂肪酸としてクロロホルムとデカン酸を使用することにした。 上記の理由で、DSC測定の結果を得るのに時間を要してしまった。最終的にDSC測定においては、FFLのATP濃度の依存した両リガンドの感受性変化を確認し、その効果が両リガンドで正反対となることを初めて熱量測定で捉えることができたので、結果は当初の計画以上に進展したが、ITC測定については予備的な実験のみとなってしまった。しかしながら、その間、ITC測定においては牛血清アルブミン(BSA)への麻酔薬結合実験を行っており、今後のFFLのITC実験に対し、有用な実験データを取得することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の実験から、熱量測定においては、麻酔薬としてクロロホルム、拮抗性リガンドとしてデカン酸を用いることが有効であることがわかったので、今年度は、まず、これまでのDSCデータを参考にして、ATPの非存在下において、適切なクロロホルムとデカン酸の濃度を選択し、ITC測定を実施する。また、昨年度は過剰のATP濃度下における実験のみを行い、FFLの構造安定性へのATP濃度依存性については詳細に調べていない。そこで今年度は、FFLとATPとモル比を正確に規定した上で、DSC測定を行い、FFLへのATP効果を定量的に評価するつもりである。 FFLへのATP効果を正確に把握した上で、ATP存在下において、非存在下と同様に適切なクロロホルムとデカン酸の濃度を選択し、ITC測定を実施する。これらの実験からATP非存在下および存在下におけるFFLへの両リガンドの結合等温線を描き、両リガンドの結合様式の差違を検討する。 さらに、DSCおよびITCで実施した両リガンド度を参照して、当初の計画通りに圧力摂動熱量(PPC)測定を行い、リガンド結合によるFFLの体積挙動(膨張率・体積変化)を調査することを計画している。そして、DSC、ITCおよびPPCの3種類の熱量測定を通して得られた熱的データをFFLおよび長鎖脂肪酸アデニル酸形成酵素の構造データと照らし合わし、熱的変化と体積的変化の巨視的・微視的な相関および結合による熱エネルギー変化と結合部位の微視的環境における構造変化との相関を検討していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究においては、微量で高価な高純度試薬であるFFLを相当量消費するため、昨年度の助成金の大半はFFLの購入費用として試薬代に充てている。この試薬代、旅費および分担者分配金を除いた端数の金額は次年度に繰り越してある。次年度も今年度とほぼ同様に、その大半はFFLの購入代金として用いることにしており、その他は、旅費および分担者分配金として使用予定である。
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Research Products
(27 results)