Research Abstract |
本研究では,細胞の力学応答機構を解明するといった観点から,まず,細胞骨格と核膜,核膜とクロマチンとの間の機械的な結合力を定量化する手法を確立する.そして,細胞が自身の機能を大きく変化させる分化・脱分化の過程で,これらの力学的相互作用がどのように変化するのか,力学的側面ならびに生化学的側面から解析し,細胞の機能発現との関連性を明らかにすることを目的としている. 平成24年度は,これまでに構築したパルスレーザによる細胞骨格切断システムを改良し,新規にニポウ式のリアルタイム共焦点顕微鏡システムを導入して,細胞核周辺の細胞骨格を切断したときの核の移動,核膜の変形およびDNAの3次元分布のダイナミクスを詳細に観察できる系を構築した.予め蛍光プローブで核膜リンカータンパク質(Nesprin, SUNなど)とDNAを可視化した,そして,収縮性の細胞骨格であるアクチンストレスファイバに着目し,これらを切断して力を解放した後に核膜がどのように変形するか,変形箇所と核膜タンパク質の分布に相関があるか,核膜直下のDNA分布も顕著に変化するかなどに着目した.核の上を横切るストレスファイバの中には,核膜に対して押し付けられているようなものも見られ,それらの直下の核膜には,リンカータンパク質であるNesprinが特異的に発現していた.また,そのようなファイバをレーザで切断すると,ファイバが収縮するとともに,核が顕著に移動・変形することが分かった.一方,核の下側に位置するストレスファイバは,短く,放射状に分布しているものが多くみられた.これらは,核上のストレスファイバに比べ張力が小さく,アクチンのターンオーバーも比較的遅いことが分かった.このように,同じ細胞内のストレスファイバでも,その3次元的配置によって,力学的・生化学的役割が大きく異なる可能性が示唆された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,細胞核周辺の細胞骨格を切断したときの核の移動,核膜の変形およびDNAの3次元分布のダイナミクスを詳細に観察できる系を構築し,順調にデータを取得し始めている.その中で,同一細胞内に存在する細胞骨格でも,その3次元的局在の違いによって,発生している張力やターンオーバーが大きく異なるといった新たな知見が得られた.これは,細胞核での機能発現と細胞骨格との関わりを考察する上で,極めて重要な知見であり,次年度以降の研究展開のための基礎データとなる.
|
Strategy for Future Research Activity |
血管組織から単離直後の収縮型細胞を血清含有培地中で静的に培養すると,収縮性が低下し,増殖性が高い合成型細胞へと脱分化していく.この過程において,前年度に確立した実験系を用いて,細胞骨格~核膜~DNA間の力学的相互作用の変化を調べていく.細胞骨格から核に作用する力の変化を計測しながら,細胞骨格との位置関係や,DNAの局在・凝集度の変化を解析する.同様にして,一旦,脱分化した細胞や幹細胞を平滑筋分化培地で培養し,再分化が進む過程についても調べ,細胞骨格と核との力学的相互作用と,細胞の機能発現との関連性の考察を深める.
|