2013 Fiscal Year Annual Research Report
細胞のがん化に関与するエンドサイトーシス機構の構造的基盤
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24687014
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
嶋田 睦 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (70391977)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | エンドサイトーシス / がん / 脂質膜 / X線結晶構造解析 / タンパク質 |
Research Abstract |
エンドサイトーシスは,真核細胞が細胞外から外部の物質を細胞内に取り込む基本的な仕組みの一つであり,体細胞における栄養摂取,シナプスにおけるシナプス小胞のリサイクリング,細胞表面受容体の内在化など,様々な基本生命現象を担っている.最近,エンドサイトーシス関連タンパク質が,細胞のがん化に深く関与しているという知見が蓄積してきているが,そのメカニズムには不明な点も多い.本研究は,特に細胞のがん化と関わりの深いエンドサイトーシス関連タンパク質の構造機能解析を行い,エンドサイトーシスによる細胞のがん化への関与のメカニズムの一端を解明することを目的とする.今年度は,クラスリン依存性エンドサイトーシスに関与するタンパク質であるSGIP1について,そのμ homology domain (μHD) の結晶化条件の改善と構造解析を行い,SAD法と分子置換法を用いて2つの異なる空間群での構造決定に成功した.またSGIP1のμHDに結合し,がん化と関連の深い他のエンドサイトーシス関連タンパク質であるEps15について,μHDに対する結合能を保持する10残基の領域を2箇所同定することに成功した.さらにこれらの領域に対応するペプチドとμHDの複合体の結晶構造解析を行い,分子置換法により構造決定に成功した.さらに,複合体の立体構造に基づいてEps15に結合できないμHD変異体を2種類作製し,実際にこれらの変異体がEps15に結合しないことを確認し,複合体の立体構造がSGIP1とμHDの生理的結合状態を反映したものであることを確認した.これらの結果により,SGIP1によるEps15認識機構の一端を解明した.他のがん化に関与するエンドサイトーシス関連タンパク質の結晶化には成功しなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,まずクラスリン依存性エンドサイトーシスに関与するタンパク質であるSGIP1のμHDの構造決定に成功した.またがん化に関与する他のエンドサイトーシス関連タンパク質であるEps15のμHD結合領域を10残基まで絞り込むことに成功した.さらにEps15のμHD結合領域由来の11残基のペプチドとSGIP1のμHDの複合体の結晶構造を決定した.これらの成果によりSGIP1のEps15認識機構の一端を解明した.これは,がん化に関与するエンドサイトーシス関連タンパク質の機能発現機構の理解を進める大きな進展であり,このことから達成度をおおむね順調に進展しているとした.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で,SGIP1のμHDはEps15のDPFモチーフと呼ばれる配列が2つ近接して連続する箇所を認識することが判明している.連続するDPF配列の数が増えるほど結合が強くなるが,その詳細な機構は不明である.またEps15全長には何分子のμHDが結合できるかという問題も未解決である.このことから,様々な数のDPF配列を含むEps15フラグメントや変異を導入したEps15フラグメント,変異体μHDを使用した相互作用解析により,近接したDPF配列の数を増やすことで結合が強くなる機構や,μHDとEps15の結合比の解明など,μHDによるEps15認識機構のより詳細な生化学的解析を行う.さらに構造に基づいたデザインにより,他のDPF結合タンパク質との結合には影響がなくμHDとの結合のみ低下するようにEps15のDPFリピート領域に変異を導入し,変異タンパク質の細胞内での挙動を蛍光タンパク質融合タンパク質を用いて確認するなど,これまでに得られた知見を活用して細胞での実験にも取り組む.またμHDに結合する他のエンドサイトーシス関連タンパク質であるintersectinにはDPF配列は存在せず,結合領域は不明である.そのためintersectinのμHD結合領域を決定し,決定した領域とμHDの複合体の構造決定を行う.またPTRFやその相同タンパク質の発現精製に関しては,発現条件や発現フラグメントの検討や,他の発現系の検討などの結晶化に向く試料の調製を推進する.さらにPACSIN2とcaveolin-1の複合体の構造機能解析に関しては,caveolin-1のフラグメントをMBP融合タンパク質として発現させ,融合タンパク質ごと結晶化用の試料として用いる計画を推進する.また他のがん化に関与するエンドサイトーシス関連タンパク質の構造機能解析も研究の進展状況に応じて適宜行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は研究の進展を優先し,当初の予定より学会発表が少なかったことや,研究の進展状況が変化したため想定したよりも消耗品の必要量が少なかったことなどにより,直接経費次年度使用額が生じた. 次年度は研究が進展したこともあり,学会発表を増やすことを計画しており,また今年度,目的タンパク質複合体の構造決定に成功した結果,より詳細な相互作用機構解析のために比較的多数のペプチド試料の購入の必要が生じるなど,必要とする消耗品に変化が出てきている.このことから,直接経費次年度使用額と次年度の研究費を合わせて,当初の研究計画にあった研究補助者の人件費や種々の消耗品に加え,これらの学会参加費や新たに必要になった消耗品の購入などに充てる予定である.
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Research Products
(7 results)