2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24700676
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
権 学俊 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (20381650)
|
Keywords | 天皇制 / スポーツ / ナショナリズム / 身体 / 天皇杯 / 国民体育大会 / 明治神宮競技大会 / 戦争 |
Research Abstract |
今年度はいくつかの研究論文をまとめることができた。まず、国民の身体に関するスローガンや規律が多くの日本国民の生活に浸透していった1937年日中戦争以降の時期を主な検討対象とし、1938年の厚生省と日本厚生協会の誕生をきっかけと、日本全国で盛り上がった「健康な国民を作る」運動を明らかにした。健康な国民とは、当然、軍事体制化における健康な兵士・武器・生産手段を意味する。戦時期日本の国家による健康の管理と統制、つまり厚生省と日本厚生協会が日本国民の身体をどのように統制し規律化したのか、その歴史と機能・特徴を明らかにした。これらを考察していくことを通して、日本人がいかに健康な心身を要請されたのか、その中で排除されていった弱者は誰なのか、ファシズム国家が求めた「健康」の理念について論究した。 また、日本人としての国民的アイデンティティあるいは国民国家としての日本社会の統合は、内部における「異質な他者」を鏡として映しだされる、特に大相撲という伝統的社会における外国人力士という異質な存在に焦点を当て、現代日本社会がスポーツ労働移民をどのように受容してきたのかを分析した。大相撲と天皇制とのかかわりについても分析を行った。さらに、戦前日本社会における天皇制とスポーツとの関わり合いについて、1、戦前日本における皇室によるスポーツ奨励とその狙い、2、「明治神宮競技大会」と天皇制との関わり、3、戦後天皇杯下賜と各種スポーツイベント参加を通した昭和天皇の地盤強化、4、象徴天皇制の公認と強化に大きく貢献した戦後日本最大のスポーツイベントである「国民体育大会」と天皇制との関わり合いについて分析を行った。これらの分析を通して、なぜ、天皇・皇室はスポーツと結びついているのだろうか、そこで作られた天皇像・皇室像とスポーツ像とは何なのかを究明しつつ、近現代日本社会の社会的特質・構造を浮き彫りにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年度研究を通して、得られたものは少なくない。日本における天皇制研究の側、スポーツ研究の側からこの問題を眺めてみても、天皇制とスポーツ、ナショナリズムについて正面から総合的に考察した研究は殆どない。このような状況の中、天皇制とスポーツの分析を通して日本社会の特質を分析した研究を発表できたことは大きな収穫といえる。 2014年度さらに研究を進め、日本社会における天皇制とスポーツの国民統合に関する学問的検討の基盤を築くことだけでなく、近・現代日本社会論と天皇制など関連分野の研究進化、日本社会におけるスポーツと政治、地域社会との関連研究、スポーツ政策史、スポーツ社会学分野などに貢献・寄与できる実績・論文を公表していきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
オリンピックは天皇制とスポーツを語るうえで重要な分析の対象であるが、昨年はオリンピックと皇族とのかかわりについて分析できなかった。今年は、オリンピックとも深く関わっている天皇と皇族を分析する。皇室は戦前「幻の東京オリンピック」と戦後東京オリンピック・札幌オリンピック・長野オリンピック等に深く関わっている。最近は2020年東京オリンピック招致に関して、IOC委員を皇太子が東京で歓迎してみせた。東京五輪が決まる直前のIOC総会では、東京のプレゼンテーションの冒頭、高円宮妃久子がフランス語と英語でスピーチを行ったのである。このように天皇・皇族はオリンピックと関わり合いを持ちながら、象徴天皇制の基盤強化を図るとともに、国民の距離を縮め新しい皇室像をアピールしていった。また、戦後日本におけるスポーツ・イベントが「地域-社会」統合に関し、どのようなダイナミズム(葛藤・矛盾を孕んだ制度-心理機制)を有していたか明らかにしたい。戦後日本のスポーツ・イベントに関する研究から得られた知見にもとづき、スポーツ動員がナショナリズムな統合に果たす現代的な機能について総括的な概観を試みる。さらに、日本と韓国のスポーツ・ナショナリズムについて、これまでの研究から得られた知見に基づき、その差異及び同時代ナショナリズムとしての位相を検討し、今後の研究につなげる。上記の研究成果を生かして韓国と日本での学会発表と研究交流を行う。研究の内容面、アプローチ面での総括的評価を行うとともに、これらをまとめ研究成果の還元を図る。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度は研究計画に基づいて着実に予算を実行したが、2014年度は国内調査として東京、長野、沖縄等の資料調査・収集や聞き取り調査のための旅費が、国外旅費としては、韓国、台湾、インドネシアなど旧植民地・占領地において、資料調査・収集が不可欠となる。そのため、2013年度予算の一部を次年度に繰り越しさせ、研究活動を展開しようと計画した。最善を尽くして日本学界と韓国学界に貢献できるよい成果を残したい。 本研究は近現代日本社会における天皇制とスポーツの全体像を明らかにする研究であり、様々なスポーツイベントの検討は必ず必要である。そのためには多くのフィールド・ワーク、資料調査・収集と研究の打合せなどが必要である。2014年度は、国内旅費としては、東京、長野、沖縄等の資料収集や聞き取り調査のための旅費が必要となる。国外旅費としては、韓国、台湾、インドネシア、シンガポールなど旧植民地・占領地において、何日間を費やし、資料調査・収集が不可欠となる。 成果発信のため日韓両国学会の発表および論文掲載のための諸経費(審査料、掲載料)も生じる。また、専門的知識の提供、聞き取り調査や資料収集、翻訳、英語校定の謝金が必要となる。さらに、関連する研究書の購入、特に日本では入手不可能な植民地朝鮮、台湾、インドネシア等の関連図書購入に費用がかかる予定である。
|
Research Products
(4 results)