2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720034
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
冨樫 進 東北大学, 文学研究科, 助教 (20571532)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 日本 / 古代 / 仏教 / 戒律思想 |
Research Abstract |
申請者は鑑真一門の将来した戒律思想が日本仏教に与えた影響とその意義を動的・かつ俯瞰的に提示するとともに、従来その断絶面が強調される傾向にあった奈良仏教史・平安仏教史の展開過程を連続的かつ有機的に理解することを目的として、鑑真門流の高弟・法進の戒律思想を8世紀後半から9世紀の日本仏教思想史上に位置付ける準備を行ってきた。 平成24年度においては、『顕戒論』『顕戒論縁起』『内証仏法相承血脈譜』などを題材に、これまで法進とは対照的な戒律観を有するとされてきた最澄の戒律思想の検討・分析を行った。その結果、最澄はインド出身の密教僧・不空の事績を拠り所として、自らの大乗戒思想に対して「仏教発祥の地インド由来の護国仏教思想」としての権威付けを試みていたことが明らかとなった。最澄が拠り所とした不空の事績は、空海によって初めて日本に将来された『表制集』に基づくものと考えられる。不空重視の姿勢は空海においても顕著に認められることから、最澄による不空密教重視の姿勢は空海との交友によって徐々に醸成されていったものと考えられる。 空海・最澄両名が、8世紀以前の日本においてその存在が知られていなかった不空の存在を重視した理由としては、不空一門が玄宗・粛宗・代宗という唐朝三代の皇帝に厚く帰依されたことに加え、梵語に通達した翻訳僧であった不空から空海の灌頂師・恵果を経て空海に継承された梵語観をも指摘することができよう。実際に翻訳作業に携わったごく一部の僧を除き、中国では梵語から漢語へ翻訳される際に生ずる意味のズレについては無頓着であり、その傾向は8世紀以前の日本においても同様であった。しかし、中国において梵語(真言)による密教受学を果たした空海が帰国することで、梵語を媒介として仏教発祥の地である印度を注目する機運が発生し、それとともに当時斜陽化しつつあった中国仏教を相対視する視点が発生したと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画の遅れの主な原因としては、以下の二点が指摘できる。 一点目としては、事情により平成24年度中に予定していた法進の戒律注釈書に関する史料調査を実現するための時間的な余裕がとれなかったことなどにより、法進の戒律思想に関する分析・検討が滞ってしまったことが挙げられる。 二点目としては、研究活動の進展に伴って当初予定していなかった題材を新たに研究対象に加える必要の生じたことが挙げられる。具体的には、不空の密教思想を日本に紹介した空海の事績、および最澄や空海が修学した9世紀初頭の中国仏教思想史や最澄・空海帰国後の日本仏教思想史・日本密教思想史に関する研究の必要性が生じたため、平成24年度後半以降は当初の計画になかった空海、および日本真言宗における密教観・真言(梵語・言語)観についても研究を進めている。これは日本思想史上大きなテーマの一つである「三国観」の分析にも深く関係する内容であり、本研究の成果を当初の計画よりも普遍的かつ俯瞰的なものとする上で必要不可欠なものであると申請者は考えている(詳細は【今後の研究の推進方策】欄を参照されたい)。 以上のような反省をふまえ、平成25年度は計画通りの研究を達成できるよう努力したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては、平成24年度中に十分に行うことのできなかった法進の戒律思想に関する分析・検討を積極的に進めていく。とくに、法進の戒律注釈書に関する史料調査を実現することにより、研究に不可欠なテキストの基礎整備を推進するとともに、先行研究の成果をふまえて新たな知見を得られるようにしたい。 また、昨年度の研究を通じて浮上してきた「古代日本仏教思想史上におけるインドへの視線」という新たな分析視点をより発展させていく。インド→中国→日本という仏教伝来の道筋に基づく「三国観」は世界観の骨格として前近代の日本人を大きく規定する役割を果たしており、日本思想史上大きなテーマの一つであるといえる。しかし、これまでは平安時代後期~中世における用例・事例の研究が中心となり、申請者が研究対象とする奈良時代後期から平安時代初期にかけての用例・事例については必ずしも体系的な研究成果がまとめられていない。【現在までの達成度】の項目においても触れたように、「三国観」という新たな研究視覚を設けることによって、本研究課題の成果を単なる戒律受容史のみに完結させることなく、たとえば当該期における日本人の世界観解明などの新たなテーマへと発展させる道筋をつけることも可能になると思われる。したがって、今後は最澄にくわえ空海・円仁といった平安初期の渡唐経験をもつ密教僧の事績についても注意を払っていくとともに、奈良時代(8世紀)の法進を中心当初の研究計画との整合性にも十分配慮した上で、より大きな問題意識のもとに研究課題を達成させていくことを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画については、国内外の学会・研究会における研究成果の発表、および東京にて毎月開催されている奈良時代の戒律注釈書研究会への参加を目的とする旅費への支出が中心となる。 また、平成24年度中に計画していたものの実現することができなかった史料調査、およびテキスト作成に関わる人件費としても使用する予定である。
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Research Products
(2 results)