2012 Fiscal Year Research-status Report
1930~40年代日本アナキズム文芸の研究 ―文献データベースの構築とその応用―
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24720110
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
村田 裕和 立命館大学, 文学部, 助教 (10449530)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 雑誌データベース / アナーキズム / 農民詩 / 萩原恭次郎 / 岡本潤 / 伊藤和 / 中野秀人 / 検閲 |
Research Abstract |
平成24年度は、1930年代の詩雑誌、文学雑誌を中心とするアナキズム関係資料の全体像を把握するための資料収集と調査をおこなった。従来その存在だけが回想録などで知られていた稀少雑誌『エクリバン』については、その所蔵先を順次訪問して詳細な目録を作成することができた。 アナキズム系雑誌には、大学や公共図書館に一切所蔵のないものが多数ある一方で、目録のみが知られている場合も少なくない。多数ある雑誌総覧(『現代日本文芸総覧』など)や、復刻本に付された総目次などを横断的に照会する作業も並行しておこなった結果、ようやく、アナキズム文献の現状が見えてきた。そこでいえることは、文献資料の保護・保存の観点からはすでに危機的な状況にあるということである。戦前の文芸運動に直接関わった世代がすでに亡くなり、公的な機関に保存されていないばかりか、関係者の間でも所在の分からない雑誌が多数存在する。資料の散逸と断定するにはまだ早いが、主要雑誌すべての原物を確認するには困難が多いといわざるをえない。現在、アナキズム文芸誌50タイトルほどを絞り込み今後の調査の対象としている。主なタイトルは『文芸解放』『弾道』(第一次・第二次)、『自由を我等に』『解放文化』『文学通信』『北緯五十度』『馬』などである。既存の目録類を参照しながら早急にデータベースを完成させるとともに、その所在調査も引き続きおこなう。 本年度の調査と分析の結果、第一に、アナキズム文芸誌が、1920年代の政治的・芸術的に前衛的な文芸運動と連続していると同時に、旧植民地を含む広範な地方文芸誌や農村在住者の文芸誌とも接続していたことがあきらかとなってきた。また第二に、アナキズム文芸の歴史において著名でありながら従来の研究では目録等が一切報告されていない雑誌『エクリバン』(中野秀人編集)の詳細が判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度(研究初年度)は、基礎研究の部門ではアナキズム文芸運動に関する文献情報を広く収集した。1930年代の主要なアナキズム文芸誌として50誌をほど選定し、それらの基礎的なデータについても収集することができた。当初はまったく文献の現状と全体像が分からなかったが、9割ほどの雑誌については、既刊の目録などで基礎的なデータを得ることができた。残りについては、所蔵先での原物確認が必要であったが、中でももっとも重要な雑誌『エクリバン』については、原物を参観しての目録作成を完了することができた。原物の所在不明のものについては、探索を継続している。当初、平成25年度にデータベース公開を目標として挙げていたが、予定通りデータベースの整備とインターネット上での公開は今年度中に達成できる見通しである。 アナキズム文芸に関する文献を用いた応用研究では、論文「岡本潤の戦中・戦後――『襤褸の旗』の頃」(『論究日本文学』96号、2012年5月)を刊行し、本研究課題が対象としている1930年代から1940年代におけるアナキズム詩人の創作活動について、総合的な問題提起を行えたと考えている。また、アナキズム詩人であり農民詩人でもあった伊藤和について、その詩人としての出発期から最盛期に焦点を当て、その独自の詩的経歴について分析した。また、戦後占領期にGHQによって大幅な削除を命じられた詩「B29の大音」について、その検閲資料の翻刻紹介と、検閲経過についての分析をおこなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度 アナキズム系文芸誌の書誌情報の入力作業とそのデータの整理をおこない、情報公開をおこなう。雑誌原本の収集及び、関係資料の収集を継続し、1930~1940年代におけるアナキズム系詩人・文学者たちの活動を明らかにする。同時期のマルクス主義文芸運動や地方農村詩人、大衆(カストリ)雑誌、検閲等に関する調査をおこない、同時代の周辺状況についての理解を深める。関連する研究会・学会等に参加するとともに、研究会を主催し雑誌を刊行する。 平成26年度以降 文化弾圧が強まり、自由な言論の余地がほとんど見いだせない中で、アナキズム文芸はどのように言論活動を維持しようとしていたのか、またその活動の実際はどのようなものであったのか。戦争協力や戦後のGHQ検閲への対応もふくめ、これまで十分に明らかとなっていないアナキズム文芸の1930~1940年代を、収集および分析した同時代の第一次資料をもとに検証し、論文および著書によって詳らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(4 results)