2012 Fiscal Year Research-status Report
ハーマン・メルヴィルの作品からみる「ひとつではない男らしさ」に関する研究
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24720144
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tokuyama College of Technology |
Principal Investigator |
高橋 愛 徳山工業高等専門学校, 一般科目, 准教授 (90530519)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / ジェンダー |
Research Abstract |
平成24年度は、ハーマン・メルヴィル(Herman Melville)の作品に於いて、身体の損傷とそれに伴う身体の加工を経ることにより、どのような男としての自己が(再)構築されているかを明らかにすることを目標として、研究活動を進めた。具体的には『ホワイト・ジャケット(White Jacket)』(1850)と『白鯨(Moby-Dick』(1851)を取り上げ、作品の分析を行った。 まず『ホワイト・ジャケット』の分析では、作品では軍艦での懲罰として行われていた笞刑が徹底的に批判されているが、その批判から笞刑が「人間の尊厳」、すなわち、「男らしさ(manhood)」を損なう行為と位置づけられていることを明らかにした。さらに、笞刑を受けても「男らしさ」が損なわれていない特異な例として老水夫ウーシャントに対する笞刑を取り上げ、身体の傷を進んで受け入れることにより社会規範に縛られない独自の男らしさが構築される可能性があることを示した。 次に『白鯨』の分析では、語り手イシュメールの「心の友」でありピークオッド号の銛打ちでもあるクィークェグに焦点をあて、全身を覆う南海の入れ墨や骨格などから彼が「野蛮」と「文明」を横断する存在であることを示したうえ、イシュメールとの関係やピークオッド号での振る舞いから、彼の領域横断性がジェンダーにも見られることを示した。 さらに、本研究では洋上を舞台にした作品を取り上げていることから、捕鯨業を中心に当時の航海の状況についての知識を深めるため、19世紀におけるアメリカ捕鯨およびメルヴィル研究に関する資料を所蔵するニュー・ベドフォード捕鯨博物館のライブラリーに赴き資料収集を行った。また、国内の学会に参加して研究成果の発表をおこなうとともに、国内のメルヴィル研究の動向をつかんだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、平成24年度に実施することとして、(a)身体加工が自己の構築にもたらす攪乱性についての考察、(b)『ホワイト・ジャケット』における笞刑の表象、とくに老水夫ウシャントに対する笞刑の分析、(c)『白鯨』におけるエイハブ船長の片脚の切断と義足の装着の分析の3点を掲げた。(a)と(b)に関して達成した成果は、「『ホワイト・ジャケット』における身体の傷と男の自己」[『英米文化研究』19号(広島大学大学院総合科学研究科欧米文化研究会、2012年)、1-16頁]として発表した。 (c)に関しては、身体加工の自己の構築に対する攪乱性についての考察を深めるため、エイハブに先立ち、南海出身の銛打ちであるクィークェグの分析を行うこととした。全身を入れ墨で覆っている、すなわち、身体加工を受けているクィークェグは、独自の「男らしさ」を構築している人物として物語に登場している。クィークェグは、片脚を失ったことで特異な「男らしさ」を構築していると考えられるエイハブを物語に招き入れる際の先触れとなる存在だと考えられることから、本研究の遂行のためにはクィークェグの身体をジェンダーとからめながら考察することは、エイハブの身体と彼の「男らしさ」について分析する際に助けになるものと言える。なお、『白鯨』に関する研究成果は、日本英文学会中国四国支部第65回大会において「クィークェグとその身体の意義」と題して口頭発表を行った。 上記の点から、当初の研究計画とは異なる点もあるが、研究の達成度としては「おおむね順調に進展している」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も研究計画に則り、研究を遂行していく。 平成25年度は、ケアをとおして男の自己がどのように揺らいでいるか、あるいは、ケアをとおしてどのような男の自己が(再)構築されるかを、「ベニト・セレノ(Benito Cereno)」(1855)と『ビリー・バッド(Billy Budd)』(1924)における男による男に対するケアの分析を行、その成果は日本アメリカ文学会全国大会で口頭発表を行い、そこで得られたフィードバックを踏まえて論文として発表する。なお、前年度の『白鯨』分析で達成できなかった点、つまり、クィークェグについての分析の論文発表およびエイハブの身体の有り様と彼の「男らしさ」についての分析にも取り組む。研究が遅れた場合は、「ベニト・セレノ」に焦点を絞って研究を遂行していく。 最終年度となる平成26年度は研究期間のまとめと位置づけ、前年度までに達成できなかった点についての研究と成果発表を行ったうえ、身体あるいは五体満足という思想とケアという点から「男らしさ」の問いなおしを行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は、メルヴィル研究・批評理論・ジェンダー研究に関する図書、プリンタインクカートリッジ等の消耗品、成果発表および研究動勢把握のための学会参加のための国内旅費に使用する。
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Research Products
(2 results)