2013 Fiscal Year Research-status Report
ハーマン・メルヴィルの作品からみる「ひとつではない男らしさ」に関する研究
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24720144
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Research Institution | Tokuyama College of Technology |
Principal Investigator |
高橋 愛 徳山工業高等専門学校, 一般科目, 准教授 (90530519)
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Keywords | アメリカ文学 / ジェンダー / ケア |
Research Abstract |
平成25年度は、ハーマン・メルヴィル(Herman Melville)の作品において、航行中の船の上で、つまり、男だけの世界において行われるケアに焦点を当て、提供する側と受給する側の双方でどのような男としての自己がケアを通して構築されていくのかを明らかにすることを目標に研究活動を進めた。ケアに焦点を当てたのは、平成24年度に焦点を当てた身体の損傷および加工との関わりが深く、さらに、当事者となることが社会的に是認される「男らしさ」の概念とは相いれないものであるためである。 メルヴィルの作品において男のケアが扱われる作品として「ベニト・セレノ(Benito Cereno)」(1855)を取り上げ、分析を行った。この作品では、黒人奴隷による反乱が起こっていたスペインサン・ドミニック号で展開される男のケア、すなわち、従僕を装った反乱首謀者バボがスペイン人船長セレノに対して行ったケアが描き込まれているが、受給者であるセレノと提供者であるバボの男としての自己像にケアがどのような影響を及ぼしているのか、さらに、スペイン船を訪れて二人の様子を観察する立場となったアメリカ人船長デラノーの男としての自己像に対して、このケアがどのような影をさしているのかを検討した。 作品の分析を通して、セレノは自分で自分をコントロールする力を失いケア受給者として他者に依存することとなるため男らしさが損なわれたうえ、バボのケアによってありもしない男らしさを装わされていた一方で、バボは、女性性と結びつけられるケア労働を進んで行うことで男らしさを隠蔽していたこと、さらにデラノーは、心身ともに健康な見舞客としてセレノとの対比を鮮明にするとともに、浅薄な観察によって男としての未熟さを露呈させているということを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では、平成25年度に実施することとして(a)男のケアが男としての自己の有り様におよぼす影響についての考察、(b)「ベニト・セレノ」でのスペイン人船長セレノに対する介護の分析、(c)『ビリー・バッド』での水夫ビリーに対する養護の分析の3点を掲げていた。(a)と(b)に関して達成した成果は、「『ベニト・セレノ』における男のケア」として口頭発表を行った。(a)と(b)については口頭発表は行ったが論文として刊行することができておらず、また、(c)については着手することができなかった。 上に述べたように当初の研究計画からの遅れがみられるため、研究の達成度としては「やや遅れている」と言わざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成24年度および25年度の計画として示しながら着手できていない項目、すなわち、「『白鯨』におけるエイハブ船長の片脚の切断と義足の装着の分析」と「『ビリー・バッド』での水夫ビリーに対する養護の分析」に取り組み、『白鯨』と『ビリー・バッド』の分析を通して、それらの作品で示される逸脱的な「男らしさ」を明らかにする。 平成26年度は最終年度となるため、研究計画に則って(a)五体満足という思想と男性性の関連性、(b)ケアと不正の関係性、(c)男によるケアと暴力の親和性について分析し、メルヴィルが作品において逸脱を試みてきた規範的な「男らしさ」の問いなおしを行う。研究計画では他の作家による作品の分析も交えながら規範的な「男らしさ」の問いなおしを行うことにしているが、研究が遅れた場合はメルヴィルの作品に絞って研究を遂行していく。
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Research Products
(1 results)