2013 Fiscal Year Research-status Report
ベルギーの「方言」復権運動における標準語についての研究
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24720173
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
石部 尚登 日本大学, 理工学部, 助教 (70579127)
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Keywords | ベルギー / ワロン語 / 復権運動 / 正書法 / 標準語 |
Research Abstract |
本年度は、ベルギー南部のワロニー地方の方言復権運動におけるワロン語標準語について、当初の研究計画にしたがい、運動における標準語設定の意味と問題点、および一般人々の方言の標準語化に対する意識についての2つの課題について研究を行った。 前年度の収集した『私たちのことば』、『ワロン語を話そう』、『エル・ブルドン』などの復権運動に携わる団体が刊行している雑誌について、刊行する団体の特性(公的度合、科学的性格)に着目して比較分析を行うと同時に、また2013年9月5日から10日までベルギーに滞在し、復権運動の関係者への聞き取り調査を実施した。 調査により、これまで主張してきた団体ごとの標準語観の違いを、より明確に示すことが可能となり、さらにそうした違いの背後には、ワロン語にどのような復権を構想するかについての意識の違いが存在することが明らかになった。これらの成果を基に論文「ワロン語の標準化―方言学者と復権運動家の同床異夢」の加筆修正を行い刊行した(『「ベルギー」とは何か?―アイデンティティの多層性』松籟社、2013年12月)。 また、これらの調査により、明確な標準化の意図をもたない、または標準語化に反対する立場が強い状況においても、ワロン語に関する書籍や辞書の刊行が繰り返されることで、いわば「事実上の正書法」が作り上げられる過程を明らかにした。この点については、2014年3月5日に神戸大学ブリュッセルオフィスにおいて開催したベルギー研究会第52回研究会ブリュッセル国際大会において、「公的権力の存在を前提としない『事実上の正書法』の固定化」として成果の公表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2つの課題のうち、方言復権運動における標準語設定の意味と問題点については、当初の計画通りに順調に研究が進展している。一方、人々の標準語化について意識については、運動家に対する聞き取り調査をふまえ、シャンパーニュ語およびロレーヌ語の話者への調査を断念し(前年度決定事項)、また当初予定していた量的なアンケート調査からより質的な調査へと研究手法を変更した。これらはそれぞれの地域語の活力の不均衡と話者人口の年齢比率の不均衡に由来する。ただし、こうした事態は、申請書の時点において、「研究が当初計画どおりに進まない時の対応」で想定済みであり、予定の対応にしたがい第一の課題に重点を移して研究を実行することで、十分な成果を得ることが可能であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
標準語に対する意識についての研究で、アンケート調査からより質的な調査へと研究手法を変更させたことで計画は若干の変更が生じているが、それ以外の点については、当初の予定通り、入手済みの雑誌の比較分析を継続するとともに、現地での調査を行う。具体的には、本年8月に1週間程度現地に赴き、昨年度の成果を踏まえてあらためて聞き取り調査を行う。また、それにより通貨調査が必要となる場合は、さらに電子メールを用いたフォローアップ調査を行う予定である。 これらの調査活動に加えて、最終年度ということから、結果の公表に努める。本研究課題は、先に助成を受けた「ワロン語の復権運動の現状と問題点に関する研究」(研究活動スタート支援、平成22年度-平成23年度、研究者番号:70579127)との連続性、相互補完性を意識した研究であるため、双方の成果を踏まえた包括的な形での研究成果を報告書としてまとめることを予定している。
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Research Products
(6 results)