2014 Fiscal Year Research-status Report
実践研究理論構築のための調査研究ー実践と教育制度との関係をてがかりにー
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24720227
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
市嶋 典子 秋田大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (90530585)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 実践研究 / 評価 / 「対話的アセスメント」 / 間主観性 / 当事者性 / 制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、日本語教育における「実践研究」と評価研究の文献調査、評価実践を対象とした実証的研究を行った。その上で、「対話的アセスメント」という新たな評価の概念とアプローチを提起した。 まず、「実践研究」がいかなる社会的、歴史的文脈の中、どのような必然性の下に行われてきたのか、さらに、「実践研究」という概念がどう意味づけられてきたのかを明らかにした。次に、評価研究を教育観、言語能力観との関係で考察した。そして、「実践研究」と評価研究の先行研究から浮かび上がってきた問題点の接点を見出し、包括的に捉えなおした上で、「対話的アセスメント」という概念とアプローチを提示した。「対話的アセスメント」の対話概念については、ミハイル・バフチンが提唱した「対話原理」(dialogism)を踏まえた上で、定義づけした。 また、実践者であり,なおかつ研究者でもあるという立場は,どのような意味を持つのか,その意義を主張した。そして,日本語教育における研究の「科学化」志向という問題点を指摘した上で、教師自らが、実践に関わる中で得る経験の意味を積極的に提示していくこと、学習者との間主観的な体験に内在する固有の意味を掬い上げていくことが重要になることを示した。さらに、実践者自らの当事者性に注目し、そこから紡ぎ出される教育現場での生の営みや言葉の創造の意味を積極的に提示していくことによって、従来の方法論では得られなかった新たな知を導きうることを主張した。また、「実践研究」から得られた知見を起点に、カリキュラム、制度、政策へ提言し、改革していく活動として発展させていくこを提言した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「実践研究」に関するメタ研究として、ある一定の成果を残すことができた。「実践研究」や評価研究に関する文献調査、インタビュー調査、教室談話分析については、著書(単著)『日本語教育における評価と「実践研究」-対話的アセスメント:価値の衝突と共有のプロセス』ココ出版、にまとめることができた。本書では、実践から提起された問題と先行研究における理論的背景、バフチンの「対話原理」を包括的に捉えなおした上で「対話的アセスメント」を提起し、この「対話的アセスメント」を組み込んだ日本語教育実践の実態を「実践研究」によって明らかにしている。「対話的アセスメント」は、動態的・関係的言語能力観に立ち、意味の複数性や論争性、プロセス的・主体的学びとの不可分性によって特徴づけられる。「対話的アセスメント」においては、あらかじめ規定された評価基準に学習者をあてはめていくのではなく、教師と学習者が実践の文脈に沿って、評価基準を吟味し、よりよい基準へと更新していくことが重視され、評価基準の間主観的理解が目指される。このような評価活動の実態の記述によって、評価理論の実践化、実践の理論化を越えた、実践形成過程の検証を対象とした「実践研究」を提起した。また、日本語教育における「実践研究」と評価のパラダイムシフトとして、①制度が規定する評価から実践を起点とした評価へ、②方法としての「実践研究」から思想としての「実践研究」へ、③実践に内包された評価へ、④「生の営み」としての実践研究:「対象者」の記述から「当事者」と「共在者」の記述へ、という視座を示した。
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Strategy for Future Research Activity |
日本語教育実践のデータを複数、収集、分析し、具体的な「実践研究」の研究方法や記述の可能性を探っていく予定である。また、実践から生起した問題を、自身の実践の改善や教師の自己実現といった形で完結させるのではなく、より大きな枠組みを改変していく礎として位置付けていく必要がある。今後は、日本語教育実践を制度や社会とどのように結びつけていくか、その方法論的課題や可能性を考察していく。
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Causes of Carryover |
当初、データ収集地として予定していた中東地域の治安が悪化したため、データ収集を行うことができなかった。そのため、旅費や人件費に差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越した金額は、中東地域の治安が安定した場合には、追加データを収集のための旅費に使用する。中東地域の治安が不安定な場合、代替地として、東アジアの韓国での追加データ収集を考えている。
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Research Products
(6 results)