2012 Fiscal Year Research-status Report
大航海時代における金属資源と火器の流通について-考古学的資源論の模索-
Project/Area Number |
24720363
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Beppu University |
Principal Investigator |
上野 淳也 別府大学, 文学部, 准教授 (10550494)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 ロシア / 国際情報交換 フランス / 国際情報交換 ベルギー / 国際情報交換 マレーシア / 国際情報交換 フィリピン |
Research Abstract |
国内の研究実績としては、金属資源の第1流通形態であるインゴットの出土分布調査をおこなった。調査資料は、最晩年の徳川家康の居城駿府城出土資料、及び倭冦の中継基地であった五島列島の小値賀島山見海底遺跡出土資料である。形状の鑑定や鉛同位体比法を用いた鉛の産地同定により、駿府城資料には華南産とタイ産のインゴットが、山見沖出土資料にはタイ産の資料を含むことが判明した。これらの調査から、五島を足掛かりに活躍した王直等の後期倭寇勢力による金属資源流通実態の一端を把握する事ができた。駿府城資料に関しては、家康が大坂の陣前に英・蘭と大砲及び金属素材の交易をしていた記録も残っており、資料中に金属素材そのものを発見したことは、物的証拠の発見と共に朱印船貿易の実態を考える上でとても意義のあることであった。また、鹿児島の尚古集成館所蔵の大友宗麟由来大砲の研究成果に関しては、別府大学出版論文集内において論文発表を行ない、大坂の陣で用いられたと考えられる津和野町所在大砲のサンプリング及び実測作業も遂行した。 国外の研究実績としては、調査協力関係にあるロシア砲兵博物館の国際会議で本学の平尾良光教授と共同で調査報告をおこなった。これは、大友宗麟由来のものとされる大砲に用いられている金属の産地及び型式学的鑑定に基く製作地の同定に関するものであった。発表成果に関しては、砲兵博物館の紀要に掲載されており、次号に続編を掲載する予定である。夏季には、パリ及びブリュッセルの軍事博物館所蔵の日本製と考えられる大砲の実測調査及びサンプリングを両館協力の下で実施した。調査成果からは、両砲共に、日本産の金属材料を用い、型式学的にも日本製である事が把握された。両砲は、藤堂高虎と佐竹義宣に由来するもので重要な調査成果となった。また、フィリピン国立博物館から提供された資料の科学分析をほぼ終え、読解及び解釈の作業に入っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究計画に関しては、①沈船サンディエゴ号・尚古集成館資料の分析、②ロシア砲兵博物館における調査、③フランスのギメ博物館への資料調査、④津和野町・阿久根市の大砲の調査、以上が主な調査対象であった。この内、①に関しては科学分析を終え、分析結果の読解及び解釈の作業に入っている。②ロシアにおいては、調査のみならず砲兵博物館主催の国際会議において調査報告もおこなった。③に関しては資料の所在が判明せず、④の阿久根市における資料採集は時間的に困難であったため、次年度におこなう事とした。 しかし、初年度には、⑤駿府城や小賀値島の資料に関するインゴット出土の新情報、⑥フランス国立軍事博物館及びベルギー王立軍事博物館の日本製大砲の実測及びサンプリングの実現等、新資料の発見が重なり、予定以上の調査の進展及び研究の深化が達成された。また、科研費採択直前に既に高知県岡豊城出土インゴット及び鹿児島県尚古集成館所蔵大砲のサンプリング及び化学分析も早々に済ませていた。したがって、実質的に、当初計画以上に研究が進展した。 また、次年度の調査予定地である東京所在の千秋文庫及びマレーシア国立博物館との調査交渉に関しても、既に交渉済みで、内諾を頂いている。
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Strategy for Future Research Activity |
海外調査計画に関しては、東南アジア及びインドへ資料採集へ赴く予定であった。この内、東南アジア方面に関しては、現在、マレーシア国立博物館と資料調査・サンプリングの内諾を得ており、7月後半に現地に赴く予定である。また、この際に、沈船資料が多く所蔵されているとの情報を得たマラッカ及びブルネイの国立博物館へも赴く予定である。 しかし、インドへの資料採集に関しては、南欧~トルコへの資料採集に切り替えるべきであると考えている。ポルトガル・スペインに関しては、日本の大砲に影響を与えた南蛮(中国南岸~東南アジア)製火砲のプロトタイプであるポルトガル砲の調査をおこなう。また、トルコにおいては、16世紀に地中海及びインド洋で、ヴェネティア及びポルトガル・スペインと戦闘を繰り広げ、それらキリスト教国から戦利品として多数の火砲を持ち帰ったオスマン・トルコの資料がトルコの軍事博物館に収蔵されているのでこれら資料の見学をおこないたい。 また、日本における火砲の国産化の問題を考えるに当たって、ヨーロッパにおける火砲調査の必要性が生じてきている。近代以降、日本を始めとしたアジア製の大砲が戦利品として、或いはコレクションとして、欧米に持ち帰られていることが把握されてきているからである。こちらの調査も合わせておこないたい。調整が付けば、ベルギー王立博物館所蔵のボルネオ島引き上げ大砲資料のサンプリングをおこないたい。 国内調査に関しては、6月に東京都の千秋文庫(佐竹氏関連資料所蔵)にて、石火矢の絵画資料の写真撮影及び実測をおこなう。また、前年度におこなう予定であった鹿児島県阿久根市への調査にも赴く。 以上の特に大砲(石火矢・佛朗機砲)に関する成果を、9月に思文閣より発刊予定である別府大学文化財研究所企画の書籍に論文掲載する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費に関しては、前年度(平成24年度)、急遽、ロシアのサンクト・ペテルスブルクにおける国際会議での報告や、新資料発見等に伴い旅費が膨らんだ為に、設備備品(パソコン及び周辺機器)の購入が計画通りにゆかなかったため、消耗品費として確保していた予算を設備備品費に回し、平成25年度予算に設備備品の購入をおこなう。 旅費に関しては、6月に東京都の千秋文庫(佐竹氏関連資料所蔵)にて石火矢の絵画資料の写真撮影及び実測をおこなう。7月には、東南アジア(マレーシア国立博物館・マラッカ海軍博物館・ブルネイ博物館)へ、1週間程度、大砲及び沈没船資料の調査へ赴く。マレーシア国立博物館においては、大砲の金属サンプリング作業をおこなう。また、平成25年度後半に鹿児島県阿久根市及びヨーロッパ方面へ資料採集に赴く。 人件費は、世界中から持ち帰ったサンプルあるいは図面資料に関して、化学分析担当の大学院生にはサンプルの化学測定の対価として、図面資料に関してはデジタルトレース製図作業の対価等として支出する。
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Research Products
(4 results)