2013 Fiscal Year Research-status Report
現代エジプトのオルタナティヴ・モダニティとしての空手実践に関する社会人類学的研究
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24720403
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
相島 葉月 国立民族学博物館, 民族社会研究部, 外来研究員 (40622171)
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Keywords | エジプト / 社会人類学 / 社会階層 / スポーツ / モダニティ / 身体文化 / 民族誌 / 教養 |
Research Abstract |
平成25年度の目標は空手の効果に関する機能主義的な言説を、エジプトの都市中流層の階級意識と教育論に位置付けて考察することであった。特に、空手実践における「楽しさ」の位置づけと中流層的倫理観の関係性について解明することを目指した。初年度の調査は高級住宅街にある上流階層向けの会員制スポーツクラブが中心となったものの、空手教室の指導者の多くは中流層出身者であることが判明した。よって今年度は指導者へのインタヴューを中心に調査を進めた。エジプトでは公務員や会計士であっても本業から得る収入だけでは中流層的な生活水準を維持することは難しいため、副業を持っているのが一般的である。空手教室の指導者は学生時代に空手の稽古に励み、エジプト代表チームで活躍した経歴を持つ。ただ、空手の指導を本業としている者は希少で、多くの空手家は一般企業等に就職しつつ複数の空手教室を掛け持ちしている。上流階級出身者にとって空手などのスポーツは余暇を楽しく過ごす娯楽であるのに対し、中流層出身の空手家たちは試合に勝つことを目標としないスポーツは無意味であると主張する。よって健康管理や身体を動かす楽しみのために成人がジムで行うエアロビクスや重量挙げは「スポーツ」に該当しないのである。一方、稽古場や昇級試験においては生徒が委縮しないように、規律を重んじつつも過度に厳しく指導しないように努めているという。また保護者も子供がコーチを尊敬しつつも、楽しんで空手を学ぶことが重要であると考えているようだ。よって、中流階級の教育論において「楽しさ」は全く無縁の概念であるとはいえないことが判明した。今後はスポーツ実践において目的を持つことや、稽古を通じて強くなることの意味について考察を深めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
①都市中流層の教養としてのスポーツ実践:本年度は青少年センター(マルカズ・シャバーブ)と呼ばれる公営のスポーツ施設で行われている空手教室を中心に調査を行った。国営出版社アフラームの月刊誌「アル=シャバーブ」が1977創刊であることが示すように、1970年代に「青少年(シャバーブ)」という社会学的概念が定着したと言える。エジプトの行政機関において学校教育は教育省(ワズィーラ・アル=タルビヤ・ワ・アル=タアリーム)の管轄下にあるのに対し、スポーツ振興に関わる政策は青少年及びスポーツ省(ワズィーラ・アル=シャバーブ・ワ・アル=リヤーダ)が行っている。青少年センターは青年省の中心的な事業の一つである。従来エジプトでは会員制スポーツクラブの会費を払える上流階級のみがスポーツを行っていた。青少年センターはそれまで体育や運動を行う機会に恵まれなかった社会階層(中・下流層)へのスポーツ振興を目指したサダト政権の政策のもとに1975年以降、全国に建設された。調査の過程で、競技会での好成績を目指す会員制スポーツクラブの空手教室に対し、公営クラブの教室は教養としての空手道といった側面が強いことが分かった。中流層出身者にとって試合に勝つことも重要だが、青少年センターで空手道の稽古を続けることがある種のステータス・シンボルとなっていることが伺えるデータが収集できた。 ②先行研究レビュー:今年度は欧米におけるカンフー映画や東洋武術の流行をカルチュラル・スタディーズの観点から論じた先行研究の収集にとどまり、分析するまでには至らなかった。来年度はより本格的な先行研究レビューを行いたい。 ③エジプトのスポーツ雑誌の収集と分析:今年度はスポーツ雑誌や青年雑誌の収集にとどまり、分析するまでには至らなかった。来年度は特に「大衆(シャアブ)」「青少年(シャバーブ)」など本研究課題の鍵概念を中心に分析したい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度も本年度に引き続き、空手実践における「楽しさ」の位置づけと中流層的倫理観の関係性について解明すべく、文献研究と臨地調査の両面から本研究課題を進めていく方針である。 ①エジプトでの調査で収集した若者文化やスポーツに関する文献資料の分析を進め、エジプトのスポーツ史における空手道の位置づけや、空手が大衆文化として受容された歴史的背景について整理し、投稿論文としてまとめたい。 ②モダニティ論に加え、国際政治経済の周縁におかれた地域でのスポーツ実践と社会階層の問題を論じている人類学及び社会学的研究を中心に先行研究レビューを行いたい。また、中東地域や欧米におけるカンフー映画の人気と東洋武術の流行の関連性をカルチュラル・スタディーズの観点から論じた研究についても概観したい。 ③平成26年度は4月と12月にエジプトでの臨地調査を行う予定である。伝統空手道(karate taqlidi)とスポーツ空手道(karate riyadi)の稽古場を訪問し、形を専門とする選手と指導者への聞き取り調査を行いたいと考えている。また若者向けの雑誌やスポーツ紙の収集を引き続き行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度末に予定していたエジプトでの臨地調査を4月に実施する計画に変更したため。 平成26年4月にエジプトでの臨地調査を行った際に平成25年度の残額を執行した。
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Research Products
(4 results)