2012 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における「雇用契約」および雇用法理論の法史学研究
Project/Area Number |
24730010
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Shokei University |
Principal Investigator |
宇野 文重 尚絅大学, 比較文化学部, 准教授 (60346749)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 明治前期民事判決原本 / 雇用法史 / 雇用契約 / 明治期の奉公人 / 明治期の弟子奉公 / 奉公人違約ノ訴訟 / 明治6年太政官布告第242条 / 民法起草委員 |
Research Abstract |
交付申請書に記載した課題のうち、主に課題A「明治期民事裁判例の蒐集および解析」について成果を上げた。具体的には、明治前期の下級裁判所における雇用に関する民事判決の蒐集および解析にあたった。 日本国際文化研究センター「民事判決原本データベース」の検索にあたっては、訴訟事件名の一部に「雇/被雇」、「奉公」、「弟子」、「給金」、「給料」等が含まれる事例を中心に蒐集し、のべ800件ほどを確認した。現時点でのおおまかな訴訟類型を示す。 まず、明治6年太政官布告第242号「訴問文例」第12条「奉公人違約ノ訴訟」に沿った訴訟が三類型ある。(1)雇庸者より被庸者(奉公人・雇人)が年季満了以前に雇主宅を出奔する契約違反を訴える訴訟(明治17年八日市場治安裁判所「雇奉公不勤給金取戻ノ訴訟」等)、(2)「職業伝習」を目的とした被庸者(弟子奉公人)が、礼奉公を含めた年季満了以前に出奔した場合の訴訟(明治13年大阪裁判所「年季弟子奉公人取戻ノ詞訟」等)、(3)被庸者から、雇庸者に対する給金請求訴訟(明治17年竹田治安裁判所「小学校教員給料催促ノ詞訟」等)である。 それ以外の類型として、(4)請負的契約における契約違反の訴訟(明治16年大垣治安裁判所「乳母給金請求ノ詞訟」等)、(5)人身売買的契約に関する訴訟(明治16年徳島裁判所「給金催促ノ詞訟」【注:妾契約履行の訴え】等)、(6)その他である。 (3)は幕藩期には禁止されていた奉公人・雇人から「主人」を訴える類型であるが、一定数確認できた。また、(1)~(3)いずれにおいても被庸者の「人身の自由」を保障する事例が確認できる。(4)では、訴訟代人、芸人、乳母など多様な職種での契約訴訟が見いだせる。(5)は芸娼妓契約や妾契約などが該当し、不法に妾を斡旋して摘発された刑事事件的訴訟記録も確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、交付申請書記載の課題A「明治期民事裁判例の蒐集と解析」を中心に研究を遂行し、課題Bにも取り組んだ。 課題Aについては、のべ800件以上の裁判例の蒐集・分析を行った。明治6年太政官布告第242号「訴答文例」第2条の訴訟類型に該当する例が大半を占めたが、分析の過程において多様な契約関係における訴訟が数多く確認できた。そのため、データの整理・分類に時間を要し、研究遂行にやや遅れが出てはいるが、質・量ともに充実したデータの収集とより高度で精確な分析は、本研究の質の向上に不可欠なプロセスであり、本研究遂行全体にとって有意義である。現時点で達成した成果は、大きく二点である。 第一に、裁判例分析の成果である。まず、近世以来の雇用関係・雇用慣行に対する裁判所の評価を抽出した。近世では主従関係であった雇庸主と奉公人・雇人関係に対し「人身の自由」を明言して被庸者の主張を認定した事例、「礼奉公」慣行を「芸娼妓解放令」第2条を根拠に否定した例などは、西欧思想に基づく身体的拘束の否定と契約の有効性に対する裁判所の判断を検討する好材料である。次に、訴訟当事者や内容の多様性と論点の拡大である。240件以上確認できた給金をめぐる訴訟では、教員、訴訟代人、乳母、妾など多彩な当事者が登場する。当事者の関係や職務内容に応じて訴訟上の論点も多岐にわたり、雇用契約としての検討にとどまらず幅広い観点からの検証を試みている。 第二に、「史料」としての判決原本分析と裁判制度の検討である。民事判決原本に、妾斡旋の取締違反事件をはじめ刑事事件に分類される事例が複数編綴されていることが確認できた。明治期の裁判の実態を解明する端緒ともなり得るため、今後も検討を進めたい。 課題Bについては、立法過程での起草委員の議論を確認しつつ、彼らが前提としていた近世後期~明治期の雇用実態を知り得る活字資料の収集・読解に取り組んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
課題Aについては、本年度に引き続き、データの活字化と分類を行い、一つ一つ論点を整理しながら、裁判例の分析と検討をより進めていきたい。年度内に活字論文として公表することを目標とする。 課題Bについては、立法過程における穂積陳重委員の雇用契約理解に対する検討を進めるとともに、旧民法における雇用規定に関する研究も遂行したい。 課題Cの雇用契約法学説研究については、Bの成果をもとに、民法制定前後の変化に注目しつつ研究にとりかかりたい。 課題Dの民法と労働法の雇用規定の比較という大問題については、「体系としての民法典」という観点から、法史学、民法学のみならず、多様な法学の学問領域に視野を広げて、幅広い文献の読解に挑戦したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
書籍を中心に物品費として20万円、研究会等への出席・報告および史料の撮影のための出張旅費として20万円を予定している。現在のところ人件費・謝金は必要ないと考えている。その他、他大学に収蔵されている文献・史料の複写費等として10万円を予算として計上したい。
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Research Products
(1 results)