2012 Fiscal Year Research-status Report
社会保険制度における租税の役割―財政および税制をも踏まえた総合的検討
Project/Area Number |
24730047
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
柴田 洋二郎 中京大学, 法学部, 准教授 (90400473)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 社会保障財源の租税化 / 一般化社会拠出金(CSG) / 社会保障目的税 / 社会保険料の軽減 |
Research Abstract |
本研究は、現在先進諸国において共通の検討課題となっている「長期的で持続的な社会保障制度を構築するための財政のあり方」について、租税をさまざまな切り口からとらえて検討しようとするものである。特に、社会保険を社会保障の中核とし、社会保険料を中心財源とする場合に、社会保障法学における議論の中心となっている「社会保障財源としての租税」が果たす役割や意義だけでなく、租税法学や財政学からの分析が必要となる点を整理して検討し、我が国の議論・改革の方向性における示唆を得ることを目的とする。 2012年度は、我が国と同様に社会保険を社会保障の中核としながら、近年、社会保障財源に占める租税の割合が増加しているフランス(フランスではこうした動きを「租税化」fiscalisationと呼ぶ)を主たる研究対象とした。それにより明らかになったことを要約すれば以下のとおりである。 フランスの社会保障財源を長期的にみると、租税の割合が増加し、保険料の割合が減少している租税化の動きがみられる。租税化の主たる要因となっているのは一般化社会拠出金(CSG)と呼ばれる所得にかかる社会保障目的税である。CSGは、保険料に大部分を依拠してきた社会保障財源に、長きにわたる議論を踏まえて導入された恒久的な税財源であり、導入後の変遷のなかで社会保障財源に占める割合を次第に大きくしている点で、理論上も実際上も重要である。他方で、保険料では、雇用政策(雇用創出や時短促進)と関連させて一定の賃金階層を雇用する使用者が負担する保険料を軽減するという動きがみられている。この軽減分は国家予算により補填されることになっている。つまり、一定の社会保障部門にCSGを充当するという直接的な租税化に加えて、雇用政策の一環として行われる使用者負担保険料の減免にかかるコストを国家予算に負担させる間接的な租税化という新しい形の租税化がみられている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フランスとの比較研究を通じて、上記「研究実績の概要」に示したように社会保障財源としての租税の考察をある程度検討することができた。この点で、研究はおおむね順調に進展していると自己評価する。ただし、以下の点になお課題が残されているため、当初の計画以上の進展ではないと考えた。 フランスの社会保障制度のうち、社会保険制度を全体としてみると、「社会保障財源の租税化」という傾向が明確になっている。ところが、社会保険方式を採用するすべての部門で税財源が投入されたわけではない。そこで、「社会保険制度の財源は社会保険料によるのか、租税によるのか」を画定している基準は何かを明らかにする必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
大きく2点について、検討を進める。 1点目は、上記「現在までの達成度」に示した課題に取り組むことである。具体的には、これまで中心的に研究してきたフランス社会保障法制度からの検討に加えて、フランスの歴史的考察を加味する必要がある。その際、社会保障制度が発展・整備された1970年代以降の歴史的考察だけでなく、総合的で体系的な社会保障制度の創設以前から社会に根付いていた使用者や同業者団体による保護にまで遡り、財源論を検討する。 2点目は、財源以外の観点からの租税の考察(日本、フランス両国について考察)を進めることである。フランスでも我が国でも、税財源が投入されている社会保険部門であっても、完全に税財源のみに依拠している部門はみられない。それでは、社会保険制度に税財源を投入する意義、その場合の税財源の機能はどのような点にあるか。この点を明らかにするために、研究代表者の専攻する社会保障法の観点から租税と保険料の法的性質の違いが財源に与える影響を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、フランスの法(制度)との比較考察を通じて、日本への示唆を得たいと考えている。その一環としてフランスの有識者や社会保障関係機関に対するヒアリングを実施したいと考えているため外国旅費の占める割合も高くした。しかし、幸いにも勤務校より在外研究の機会をいただくことができたため、外国旅費として計上していた部分について、次年度使用額が生じることとなった。これらも合わせた使用計画について下記する。 本研究の特徴は、税制や財政学の観点からも社会保障財政を検討したうえで、法的観点からの規範的検討を加味する点にある。その際、社会保障法だけでなく、租税法からの考察が必要となる。以上のような、学際的・複眼的な検討を行うため、関係図書を購入するために研究費を使用することを検討している。とりわけ、次年度は研究代表者がこれまで十分に研究してこなかった「フランスにおける税制や財政学」に関する文献(フランス語)の収集が中心となる。
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