2012 Fiscal Year Research-status Report
司法と福祉の連携における社会復帰概念の明確化と適正な量刑手続に関する比較法的研究
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24730061
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
森久 智江 立命館大学, 法学部, 准教授 (40507969)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
2012年度は、まず、日本の刑事司法における刑罰の執行のあり方に関する新たな動きのひとつとして、2011年度より継続的に国会で審議されている「刑の一部執行猶予制度」につき、社会復帰の促進、あるいは「司法と福祉の連携」という観点から、実務家との連携も持ちつつ検討し、その成果を学会シンポジウム等での報告や、論説の執筆によって公表することに取り組んだ。なぜならば、同制度は、刑法上の刑の執行猶予制度そのもののあり方のみならず、社会内処遇の法的性格と実務上のあり方に大きな影響を与えうるものであり、近年「司法と福祉の連携」の実践として進められてきた、犯罪を行った障がい者・高齢者への対応の今後の方向性と密接に関連するものだからである。刑罰を科してもほとんど再犯防止につながらないような犯罪行為者に対して、まず刑罰を科した上で、福祉的支援を行うという方法論は、刑罰の最終手段性に反し、また却って本人の社会復帰を困難とするものであることが明らかとなった。 また、「司法と福祉の連携」についての理論研究の一環として、司法福祉学の基本書の分担執筆を行った他、法と心理学会におけるシンポジウムでの心理学・福祉社会学・福祉学の研究者との共同研究の実施等、学際的な研究を進めることで、一定の成果を挙げ、同時に新たな課題発見ができた。 さらに、フィールドワークとして、福祉国家として世界的に知られるスウェーデンにおける、刑事施設出所者への福祉的支援についての現地調査を実施した。自ら請求して充実した福祉的支援を受けることが当然とされるスウェーデンにおいては、逆に、自らの要援護性を自覚しにくい人にとって、却って福祉的支援から遠ざかってしまう傾向が見られ、そのような状況の時に、福祉が強制的に介入できるような制度を設けるべきなのか、改めて検討を要する問題であることが認識できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前記の通り、2012年度は当初予定していたオーストラリアとの比較研究を主とせず、スウェーデンをはじめ、その他の国との比較や、日本国内での「刑の一部執行猶予制度」という立法動向への対応を優先したが、これは、2012年度早期の段階で、申請者の2013年度後期からのオーストラリアにおける一年間の在外研究が決定したためであり、オーストラリアとの比較研究はむしろその時期に集中的に行うものとして、当初の研究計画の順序をやや入れ替えて実施しているに過ぎない。むしろ、在外研究中は、メルボルン大学所属の研究者をはじめ、現地の研究者との共同研究を予定しており、当初の予定以上に研究が進展することも期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は、9月より開始となるオーストラリアにおける在外研究を控え、前期はそのための準備期となる。主に、これまで国内で行ってきた研究の成果を小括的にまとめ、現地研究者と共同で行う予定の研究について、そのフレームを固める作業を行う。具体的には、ビクトリア州における刑事司法制度での福祉分野の専門職・民間団体の活動について、そこで重視されている価値や共有されている「社会復帰」概念等、司法との連携がどのような理念を重視して進められているのか、また、それが具体的に制度・手続にどのように顕れているのかを検証するべく、まずは制度と従来の学説をまとめることを目指す。そのための文献調査や前提理解を深めたい。その上で、後期は実際に現地での研究を進め、在外研究中に最終的な成果としてまとめたものを公表する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度前期は、研究成果の小括的まとめのために、文献の収集や学会・研究会等での報告のための旅費が必要である。また、前期のうちに、渡豪した上で、後期の研究計画について、現地受け入れ機関においても打ち合わせを実施するための旅費が必要である。 2013年度後期は、在外研究となるため、オーストラリア現地において、刑事施設・福祉施設をはじめとしたフィールドワークや、研究会・学会等への参加のために、オーストラリア国内での旅費が必要であり、ヒアリングの際には協力者への謝金が必要である。また、オーストラリア国内での資料収集のために物品費、その郵送のために送料が必要となる。 さらに、可能であれば2013年度中に、日本との比較研究を、現地調査を交えて行うため、オーストラリアの共同研究者を日本へ招聘することも視野に入れて検討したい。その場合、その招聘のための旅費が必要となる。
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Research Products
(4 results)
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[Book] 司法福祉を学ぶ2013
Author(s)
加藤博史・水藤昌彦編著
Total Pages
317(46-55,56-63,64-69)
Publisher
ミネルヴァ書房