2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24730075
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
橋口 賢一 富山大学, 経済学部, 准教授 (40361943)
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Keywords | 組織過失 / 不法行為 / 連携 |
Research Abstract |
平成25年度は,「わが国における病院スタッフの連携ミスに関して判断した裁判例の検討」を主として行った。 調査の結果,専門領域を異にする医師,医師と看護師,医師と検査技師などの連携が問題となった裁判例が多数存在することがわかった(たとえば,病理医の診断を信頼した臨床医師が手術したところ病理医の診断が間違っていた事案において,病理医の専門性を尊重しつつも臨床医師はそれを絶対視すべきでないとして臨床医師の過失を認めた東京地判平成23年5月19日判タ1368号178頁など)。それらにおいては「信頼の原則」が問題とされ,結論としてその適用を認めるものも認めないものもあったが,その適用につき変遷が見られる類型が存することも判明した(外科医と麻酔科医との関係など)。 学説では,それぞれの事案の個別性が強いため一律に論じることが難しいとした上で「各人の担う職務の性質を的確に把握し,具体的事情を踏まえ,被害者保護の必要性のほか,各人が責任を負う根拠・許容性についても十分に検討する必要がある」という指摘(平野望「過失の競合」『医療訴訟の実務』)がある一方で,刑事法の領域であるが,水平的・垂直的分業をも意識して組織過失の全体構造を把握しようと試みる見解もあった(山中敬一「医療過誤と刑事組織過失(1)(2・完)」関大法学62巻3号,63巻1号)。 前者の見解については,問題となる場面に応じて職務に関する関係法規が異なってくるという事情もあり無視できないものである。ただ,そういう面を踏まえつつも,後者の見解をも参照して民事法の領域でも組織過失の全体構造を把握できないか検証してみる必要があるとの結論に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度は,「わが国における病院スタッフの連携ミスに関して判断した裁判例の検討」に専念した。その意図は,平成24年度に検討したチーム医療よりも広範囲に亘る連携事案を網羅し,病院システムの特徴を反映した様々な局面における判断に触れることで,「組織過失」の全体構造を把握するための契機を見出そうとする点にあった。 そうした研究の成果としては,次の2点を挙げることができる。 まずは1つ目として,関係法規に基づく職務の性質等の影響を受け,局面ごとに「信頼の原則」の適用のあり方に違いが見られることが判明したことは意義が大きかった。なぜなら,このことから,組織過失の解明にあっては,抽象的に展開することにはあまり意味がなく,それぞれの特徴を具体的に反映させた類型論を立てることが重要であることを認識できたからである。 2つ目として,「組織過失」の議論では一歩進んでいる刑事法の領域で組織過失の全体構造を把握しようとする指摘に接することができたことは意義が大きかった。「病院スタッフの連携ミス」に関する裁判例の動向を踏まえて組織過失に関する議論を展開しようとする議論の方向性(従来ほとんど指摘されていなかった)に狂いがなかったことを再確認でき,かつ信頼の原則に関する議論が組織過失論にとってどのような意味を有するのかという問題など,民事法の領域での組織過失の全体像の構築にとって有益な示唆を得られたからである。 もっとも,「病院スタッフの連携ミス」に関する裁判例は膨大であるためまだまだ追跡調査が必要であること,またドイツ法の動向調査に関しては,未だ成果といえるほどの指摘を見出し得ていないことの2点から現在までの達成度を「やや遅れている。」とした。これらの点については,平成26年度に可能な限りカバーすることとしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は,まず「病院スタッフの連携ミス」に関する裁判例を継続して調査する。ここでは,主として「信頼の原則」の適用に関する検討を通じて判決においていかなる特徴を踏まえてそこで示された結論に至ったのかを突き止めることに最大限努める。平成26年度は最終年度なので,最終的には「それぞれの特徴を具体的に反映させた類型論」の構築に取り組み,何らかの試論を提示してみたい。 またドイツ法の動向に関しては,平成26年度も昨年同様に Troeger『Arbeitsteilung und Vertrag』やPflueger『Krankenhaushaftung und Organisationsverschulden』などの読解を継続すると共に(さらなる資料の渉猟は山中敬一教授が論文で取り上げている文献も参考にしたい),判例の調査をも併せて進めることとする。これにより,上記の試論を補強する指摘を見出すよう努める。 現在,ドイツでは診療契約が民法典(BGB)へ条文化された影響を受けて,新しい研究書が次々と公刊されている(たとえば,Deutsch/Spickhoff『Medizinrecht, 7.Aufl.』や Geiss/Greuber 『Arzthaftspflichtrecht, 7.Aufl.』など)。こうした著書を通じて,最新の議論動向に目配りすると共に,条文化による従来の議論への影響にも配慮する。
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