2012 Fiscal Year Research-status Report
競争的権威主義体制における財政政策の研究:アジア通貨危機後のマレーシアを事例に
Project/Area Number |
24730123
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Fukuoka Women's University |
Principal Investigator |
鈴木 絢女 福岡女子大学, 文理学部, 講師 (60610227)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | マレーシア / 財政政策 / 民主主義 / 政党政治 |
Research Abstract |
本年度は、(1)財政に関する先行研究の整理および、(2)マレーシアにおける財政政策をめぐる現状の把握、(3)マレーシアの政治制度の整理を行った。現地調査および現地研究者とのセミナーを予定していたが、総選挙対応のために、政党や大学の都合がつかなかった。現地調査は、本年度実施する予定である。 (1)としては、福祉国家研究と開発国家研究の文献の整理を優先した。とりわけ、優位政党と行政機構の緊密な関係によって特長づけられる1955年体制下の日本の事例研究を集中的に参照した。①過大連合となった自民党政権が、②「危機対応」や「景気浮揚策」と称して財政支出を拡大することで支持基盤へのレント配分を行い、財政支出が拡大する一方で、③有権者がこのような財政配分に対して不公平感を募らせた結果として、優位政党が有権者支持喪失を恐れ歳入基盤の拡大を先送りしたために、財政赤字と累積債務が急増していくメカニズムに関する理論枠組みの批判的検討を行った。日本研究では、上記①~③を、中選挙区制と自民党および官僚機構を中心とする分権的政策決定過程から説明しているが、このような制度が不在のマレーシアでも、①~④が起きていることに鑑みて、別の説明変数を特定する必要があると考えている。目下のところ、①優位政党内の権力構造と、②脆弱な経済セクターと優位政党の関係に着目している。 上記(2)については、マレーシア中央銀行や財務省資料を整理した。成果の一部は、「政治経済体制の刷新をめぐる闘争と変革の兆し」『アジア動向年報2013』(近刊)としてまとめた。(3)については、「国民主権主義と自由主義ーーマレーシアにおける競争的権威主義体制の成立と持続」『現代民主主義の再検討』(日本比較政治学会年報第14号、2012、pp.197-220)において、財政政策におけるアカウンタビリティを損なう諸立法について触れた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
マレーシアにおける現地調査が実施できなかったことが、進捗状況に大きく影響した。マレーシアでは、2010年中から下院・州議会総選挙の実施がささやかれていた。マレーシアの大学では、総選挙が実施される場合、政治学や行政学の教員や大学院生のほとんどが選挙区の視察をはじめとした選挙研究に従事する。また、本研究の主なインフォーマントとなる野党議員も、当然ながら選挙対応の体制をとっていた。しかも、マレーシアでは、議会の解散から投票日の告示、投票日までの期間がきわめて短い。このような事情から、マレーシアの研究者やインタビュイーとアポイントメントをとり、確実に現地調査を実施する見込みが立たなかった。本年度の現地調査実施を断念したのは、このような事情によっている。 ただし、懸案の総選挙は今年の5月5日に実施されたため、本年度は現地調査を実施することができると確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、現地調査に重きを置く。とりわけ、政権や政治家の支持基盤と優先的な財政分配を受けるセクターの関係を解明することに重き を置く。本年度は、現地調査と、研究成果の発表が中心的な活動となる。 (1)現地調査: 財政と政治の関係の究明のため、与野党政治家、NGO活動家、財務省、商工会議所、労働組合活 動家へのインタビューを行う。また、各団体による省庁への陳情書、メモランダムなどもあわせて入手する。イ ンタビューの際には、プライバシー保護に細心の注意を払う。 (2)一党優位体制下の財政政策の理論化: マレーシアと日本(可能であれば台湾)の事例を比較しながら、一党優位体制下で財政支出が拡大していくメカニズムを明らかにする。 (3)研究成果の公表: 研究成果は、日本国内の学会、マレーシアのセミナーで随時発表し、学術雑誌に投稿する。また、学術メディアとは別に、日本の経済誌への投稿、市民講座の開催などを通じて、広く 市民と知見を共有する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
マレーシアにおける現地調査(3週間程度)で、45万円程度の支出を見込んでいる。この他、英文校正や資料整理の謝金として15万円、物品購入に25万円、その他に5万円を割り当てる予定である。
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Research Products
(3 results)