2012 Fiscal Year Research-status Report
アメリカにおける現代オーストリア学派の史的発展に関する研究
Project/Area Number |
24730184
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉野 裕介 京都大学, 文学研究科, 研究員 (00611302)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ハイエク / カール・ポパー / フリッツ・マハループ / 現代オーストリア学派 / 新自由主義 / 自由主義 / アメリカ |
Research Abstract |
申請者は,70年代以降のアメリカにおける現代オーストリア学派の隆盛と,かれらが移住した当時の影響の間 にあるへだたりについて疑問を抱いたため,ハイエクやマハループの活躍と1970年代以降の「現代オーストリア 学派」とを関連付け,その史的な展開を研究するという発想に至った。 上記課題に取り組むためには,戦中から戦後にかけての移民した経済学者のなかで,1)「現代オーストリア学 派」とそこに属さなかった集団との特徴を描き出し異同を明らかにすること。2)かれらの総合的・総体的な通史 を描き出すことで, アメリカ経済学およびオーストリア学派の歴史のなかで,その時代の経済学者たちの活動 に適切な位置付けを与えること,の二点を必要とする。 そこでまず24年度においては,戦後の現代オーストリア学派の経済思想の特色を描き出し,かれらがアメリカにもたらした影響について把握を試みた。具体的には,ハイエクのアメリカにおける普及に大きな役割を果たした『隷属への道』について検討し,ハイエクを中心としたオーストリア学派の経済思想の自由主義的特質を明らかにした。そこで,論文「アメリカにおけるハイエクの『隷属への道』:思想の受容・普及プロセスからのアプローチ」を完成させた。これは改稿し,経済学史学会機関誌である『経済学史研究』に25年度中の掲載が決定した。 また,現代オーストリア学派の代表的論客であるハイエクと,当時交流を持っていたカール・ポパーとの個人的な影響関係に注目し,それを明らかにした。そこでの成果は,日本ポパー哲学研究会にて報告され,論文「「ハイエクにポパー的着想はあるのか?-個人的交流と学説への影響の考察から-」(『批判的合理主義研究』,日本ポパー哲学研究会,Vol.4,No.2,p.7-13,2012年12月)として公開された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要欄に記したように,平成24年度は論文の執筆,公開と学会報告とまずまずの成果が得られたと考える。このため,(2)おおむね順調に進展していると判断した。 特に24年度は,関東方面で行われたいくつかの学会や研究会(進化経済学会,日本ポパー研究会,『ハイエクを読む』研究会など多数)に参加し,論文公表や議論の機会を得たことで,研究成果の発表の準備とすることができた。これらの学会・研究会は,申請者の研究計画と密接した研究領域の研究者が集う場であり,フィードバックを得るには格好の機会であった。ここで得たアイデアやコメントなどは,随時論文に反映させることができたと同時に,次年度以降執筆する論文の貴重な教唆も得た。 また,当該計画に関連するハイエクおよび現代オーストリア学派関連の書籍や研究の進展に必要な消耗品を購入し,本計画の遂行に必要な研究資料の収集を行った。これにより,25・26年度も使用する資料,書籍を早くから利用することができ,より広範な知識の収集と論文の執筆へ役立てることが可能となっている。 戦後の現代オーストリア学派の経済学方法論の特色を描き出し,かれらがアメリカにもたらした影響 について包括的な把握を試みるという計画については,経済思想の考察を同時に行いつつ,実行した。特に,アメリカにもたらされたヨーロッパ由来の経済学方法論と経済思想の関係を,ウィーンに出自を持つ実証主義的な経済学方法論と,その批判から生まれた方法論との二つのモーメント,およびイギリスのリベラルとアメリカにおけるリベラルの意味合いの差異を注目しつつ考察を深めた。ここでの考察は,当初研究目的に記した計画と,その発展を含むため,計画の順調な進展を評価する次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度においては,さらに計画を具体的に進め,より深めた考察をするために,海外の研究者と共同研究を進 めるとともに,研究へのアドバイスを求める。 具体的には,(1)アメリカ・スタンフォード大学での現地調査と 同大ロバート・リーソン准教授との研究打ち合わせを行い,研究の進展について指導を仰ぐ。同氏とはこれまで の現地での資料読解や論文執筆などを共同作業した経験を持つ。また(2)ニューヨーク大学のマリオ・リッツォ 教授との打ち合わせや現地で毎年開催される短期のセミナーに参加し,成果公表につなげる。当地は,現在オー ストリア学派研究のメッカであり,同氏はその先導的立場にある。すでに申請者は当地に滞在し現地研究者と知 己を得ているため,かれらのアドバイスをもらい研究に反映させることができる。 具体的な研究テーマは以下である。アメリカに渡った多くのドイツ語圏経済学者は,交流を持ち互いに影響し合いながらアメリカで活動をしてい た。かれらの一部は,アメリカの学界においても主導的な立場を獲得し主流派と合流したものもいた。例えばノ ーベル賞経済学部門を受賞したG.スティグラーや,アメリカ経済学会会長を勤めたF.マハループらである。 そ の一方で,アメリカにおいて終始少数派にとどまり現代オーストリア学派という異端派が登場するきっかけとな ったのが,L.ミーゼスやF.ハイエクの存在である。 そこでネットワークの中心的な役割を果たしていたマハループの功績を軸に, かれらの経済学方法論の特色を明らかにすることで,この知的集団が形成された過程が明らかになる。同じ出自を持つ経済学者た ちが個人的に交流しつつかれらの方法論を築き上げて徐々に集結し,最終的にあるひとつの集団が現代オースト リア学派という知的なネットワークを形成する過程を解明したいと考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度も引き続き学会や研究会に参加し議論することで,研究内容の彫琢を目指す。同時に,いくつかの研究会では共著の書籍として成果を目指すものもある(現代規範理論研究会,ハイエク研究会など)ため,これらの参加により,最終的に共著者としての論文公表の機会を得る足がかりとする。 参加予定の学会が行われる会場は,申請者の所属する京都大学から離れた場所で行われ,東京方面での打ち合わせも多く行われると思われる。また,研究成果をより多くの人たちと共有し,その成果を得るために,これまで以上に学会・研究会へと参加を予定している。例えば,社会思想史学会,現代規範理論研究会,アメリカ学会などであり,その他にも当該学会が主催するセミナーなどへ参加し,研究資料を収集することも考えられる。そのため,それらに出席するための旅費を確保するとともに,24年度の予算では購入しきれなかった資料および書籍などの購入にあて,論文の執筆に役立てたいと考えている。
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