2012 Fiscal Year Research-status Report
中国における農村から都市への労働移動が彼らの子供の人的資本形成に与える影響
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24730239
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
山内 慎子 政策研究大学院大学, 政策研究科, 助教授 (50583374)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 移民 / 労働移動 / 子供 / 人的資本 / 健康 / 教育 / 中国 / 国際研究者交流 |
Research Abstract |
平成24年度に行われた研究の結果、中国における農村から都市への労働移動がどう子供に影響するかに関して、幾つか興味深い洞察が得られた。一つは、父親の出稼ぎ期間が長いほど子供の背が低い傾向があるということである。身長は幼少期からの栄養状態を反映することが知られており、父親が出稼ぎに出た家庭では栄養状態が芳しくなかった可能性が考えられる。また、こうした家庭では子供の学業成績(中国語と算数の期末試験得点)も低い傾向が見て取れた。長期的な健康状態が悪いと学業成績も悪化する傾向は多く報告されていることを踏まえれば、これらの結果は、親の出稼ぎから生じる身体発育の遅れが学力の遅れにもつながる可能性を示唆していると考えられる。 方法論的にも、親の出稼ぎが子供に与える効果に関する一連の研究に貢献する成果が出せた。というのは、一連の研究では、一年前の居住状態によって出稼ぎ中か出稼ぎ中でないかを表す方法を取るものが多い。しかしこれは、子供の身長のように幼少期の栄養状態に大きく左右されるものへの効果を見るには不適切な指標と言える。我々は、親の出稼ぎが子供に与える効果に関する一連の研究の中で初めて、子供の生涯のうち何割にあたる期間、親が出稼ぎでいなかったかを計算した。これにより、一年前など直近の出稼ぎ状態が与える影響として推計されていた効果は、より累積的な出稼ぎの効果を反映している可能性が大きいことを示すことができた。また、子供の学業や健康に関するデータも主観に左右されやすい指標でなく、テストの点数や身長・体重といった客観的データを用いることで、より正確な分析を行うことができた。 これらの結果はInternational Food Policy Research InstituteやUniversity College Londonにおける移民に関する学会などで報告され、国際的に広く発信できたと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究実施計画では、Rural-Urban Migration in China(RUMiC) Studyという家計調査データから農村部のデータベースを構築することが第一の作業であった。個人レベルのパネルデータを作り、外部データ(都市への距離や都市・農村間での賃金差など)と結合する作業では、マッチするためのIDが複雑であったことなどから時間を要したが、ほぼ終了した。こうしたデータをもとにして行った推計作業では「研究実績の概要」で述べたような興味深い結果が出ており、現在国際学術雑誌へ投稿できるよう改訂中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、以下の三つの研究課題について分析を進める。一つは、新しく収集された2011年度のデータを加えて平成24年度に行われた分析を補充することである。二つ目は、RUMiCの農村部と都市部のサンプルを同時に用いて、農村出身者の子供のうち、親と共に都市へ移住した子供と農村部で親と共に留まる子供との間に健康状態や就学状態・学業成績に差がみられるかを検証する。三つ目には、都市部のサンプルのみを用いて、都市部で農村出身の子供と都市部出身の子供との間で健康状態や就学状態・学業成績に差がみられるか、農村出身者用の教育・医療サービスが整っている地域において差が緩和される傾向があるかについて分析を進める。 これらの分析をするため、4-7月にRUMiC の2011年度データを処理し、既存の2008-2010年分のデータと合体する。また、都市部への移住の誘導要因になった要素として、農村部における天候のデータも収集する。これは、雨量が減少したり気温が低まったりした年には農業所得が低下し農村部から年への出稼ぎが増えるという仮説に基づくものである。また都市部のサンプルを用いた分析のため、農村出身の子供達が都市に移住してきて何年たったかを表す変数や、都市部における教育・医療サービスに関する変数を構築する。 10月に海外研究協力者であるXin Meng教授との共同作業のため申請者がAustralian National Universityを一月ほど訪問する。推計結果をまとめたものを国内外の学会において発表し、フィードバックに基づいて改訂を施す。2月に移民・出稼ぎと子供の健康状態や学業成績に関するワークショップを開催する。このため、国際的専門家を政策研究大学院大学に招待し講演を要請する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費の使用計画は以下のとおりである。 国内旅費(日本経済学会での発表 5万円) 外国旅費(Meng教授との共同研究のためオーストラリア国立大学を訪問 50万円、North East Universities Development Consortiumでの発表 30万円、ワークショップに招待する国際的専門家2人 50万円) 人件費・謝金(リサーチ・アシスタントや翻訳家への謝金 100万円) その他(印刷費、複写費、通信費、中国の農村・都市間労働移動に関するワークショップ開催にかかる経費 30万円)
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Research Products
(6 results)