2015 Fiscal Year Annual Research Report
多文化共生の民族祭りにみる存在の政治と人間関係形成の事例研究
Project/Area Number |
24730427
|
Research Institution | Fukuyama City University |
Principal Investigator |
山口 健一 福山市立大学, 都市経営学部, 講師 (90614149)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 在日朝鮮人 / 民衆文化運動 / 民族まつり / 多文化共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は、引き続き調査対象への参加観察を続けるとともに、これまで収集した祭り当日の表象形態の画像・映像データやパンフレットや報告書等の文書データを、整理した。それらのデータを、これまでのインタビューデータや参加観察から得られた知見(民衆文化運動やハンマダンや東九条マダンの意味世界)とすり合わせ、東九条マダンの民衆文化運動性や地域での社会変革戦略を考察した。さらにその知見を、在日朝鮮人の他の民族まつりの知見と比較しつつ、その独自性を考察した。その結果、次のことが明らかになった。 (1)在日朝鮮人の民衆文化運動の思想の特徴。1980年代に韓国から日本に輸入された民衆文化運動は、在日朝鮮人社会において自らの文化創造のための思想的・実践的源泉の一つとなった。またその運動は、自由や平等といった価値を掲げる普遍主義的な思想を有することが明らかになった。 (2)ハンマダンの意味世界の特徴。在日朝鮮人の民衆文化運動の思想と継承関係を有するハンマダンは、他の共同体主義的な文化実践とは異なり、多様な個人を尊重する個人主義的な民衆文化運動であることが明らかになった。 (3)東九条マダンの意味世界の特徴。東九条マダンは、在日朝鮮人の民衆文化運動をなすハンマダンと異なり、より多くの主題と担い手に開かれた、楽しさを重視する「民族まつり」である。その形態が、マジョリティとマイノリティの政治的対立や衝突を回避させ、対立する人々の偏見を融解させ理解を促進する効果を有していた。この実践は、マイノリティの境遇の表象をマジョリティに承認させる、〈存在の政治〉戦略と呼べる。 なお(1)の論文は2015年1月に掲載されたが、(2)の論文は執筆後現在査読中であり、(3)は現在執筆中である。今後は、(4)東九条マダンにおける人間関係形成、(5)多文化共生と自由民主主義の具体化事例としての評価、を考察する。
|