2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24730704
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
田中 理絵 山口大学, 教育学部, 准教授 (80335778)
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Keywords | 児童虐待 / 再生産 |
Research Abstract |
本研究の目的は、児童虐待を経験した後の子どもの社会化パターンを成人期まで長期に渡って解明し、特に「児童虐待の再生産」に関わる諸要因を実証的・理論的研究において析出することである。児童虐待の再生産問題は言説として一般に流布しているが、児童福祉現場では必ずしもそうとは言い切れないといった知見も出ている。この点を含め、子ども期に虐待を経験した者がどのような社会化過程を経て親になるのかについて解明するために、本年度は研究計画に従って以下の調査研究を行った。 I.実証研究:被虐待経験者(子ども期)の日常生活に関する参与観察の実施 子ども期にある虐待被害者たちは、自分たちの置かれた状況や不当な問題について声を上げることは、まさに子どもであるがゆえに、できない存在である。家庭内で虐待を受けて保護された子どもは、社会的保護者という立場に置かれケアの対象とされるものの、それで問題が解決するわけではない。健康で健全な日常生活が保証される一方で、しかし心のあり方までもが「虐待児童」として扱われ、そのレッテルから彼/彼女のパーソナリティも判断されることになる。そこで本研究では、児童養護施設での参与観察を実施することで、現在子ども期にある子どもたちの心情や不安・不満を具に収集した。また、児童虐待後の子どもたちの社会的状況について明らかにするために、虐待児童の割合が75%を占める児童養護施設を見学し職員への聞き取り調査を実施している。 II.理論研究:児童虐待を受けることで子どもにどのような心理的影響や社会学的問題が生じやすくなるのかについて、精神医学、心理学、社会額面での先行研究についてまとめ、分析を行っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
交付金のおかげで、本年度も継続的な参与観察を行うことができ(平成25年4月~平成26年2月)、児童虐待を受けた子どもたちを取り巻く環境や、行事ごとに感じる問題や不安などについても聞き取りができた。また、虐待児童ばかりを保護・監護している施設において、家族(親)の抱える病理的・心理的・社会的問題と本人(児童)の抱える諸問題の両方を示す資料を見せていただくことができ、本研究の「虐待の再生産」問題について貴重な比較データを得ることもできた。これらは補助金のおかげである。 しかし、本年度は調査者(申請者)が体調を崩して病休を取ったため、データを収集できたものの、それらを分析して公表するまでには至っていない。現在は、病気も治って職場復帰もできており、次年度は、さらに子ども期に虐待を受けて成人し、自分自身の子ども・家族をもつに至った人を対象として聞き取り調査を拡大して遅れを取り戻す予定である。また理論研究においても、昨年度からの課題である「どのようにして児童虐待は再生産するという言説が流布するに至ったのか」という点についても、調査を引き続き進めてまとめていく予定である。 以上より、現在までの達成度は「やや遅れている」としたものの、遅れは十分に取り戻せる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、子ども期に児童虐待を経験したものを対象に調査分析を行っているが、子ども期にある虐待被害者たちへの参与観察で得られた諸問題について、それらが成人することでどのように解消されるのか、あるいは解消されずにさらに大きな問題として残ってしまうのかについて調査を行う予定である。 虐待に対して、子ども時代はまさに彼らが子どもであるがゆえに、問題を的確に認識したり、訴える力を持たない。さらに別の問題として、虐待から保護された子どもたちは、次は社会的保護を受ける者という立場に置かれ、健全な生活環境や心の問題について専門家の下に置かれるチャンスを与えられるものの、それらが子どものニーズに合っているとは限らなかったり、むしろ「虐待を受けた傷を回復しなければならないもの」というレッテルを貼られることによって新たな問題を抱えるケースも非常に多いことが調査から明らかになってきた。しかも、こうしたレッテルを拒否することは「虐待の後遺症」としても扱われかねないし、思春期の子どもであれば誰でも通るような反抗的態度すらも親のせいにされて哀れまれるといったことで、不快な思いをしたり、自らをラベリングする契機になることも多い。 虐待児童の多くが様々な問題(精神的な病気、発達遅滞、教育機会の剥奪による勉強の遅れ、自信のなさ等)を抱えており、その家族においても同様の問題を親が抱えていることも多いのも事実である。 そこで、成人して家族を形成したものを中心として聞き取り調査を行い、虐待の再生産の問題の要因・背景に関して、できるだけ具体的にデータを収集して分析を行っていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
調査研究に掛かる旅費と、聞き取り調査を実施した後に相手に対する専門的知識・情報への謝礼およびテープ起こし・データの整理に関する謝礼を予定していたが、本年度は体調を崩したために、遠方への調査が予定通りにできなかったため、それらの経費が次年度に持ち越された。 現在は体調も回復しており、延期していた調査を実施する予定である。また、論文の執筆も計画できている。
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Research Products
(1 results)