2013 Fiscal Year Research-status Report
超平面配置の自由性の多角的解析と関連する幾何学の研究
Project/Area Number |
24740012
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阿部 拓郎 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (50435971)
|
Keywords | 超平面配置 / 自由配置 / ルート系 / 対数的ベクトル場 / 指標 / イデアル / 高さ分布の双対分割 / Shi配置とCatalan配置 |
Research Abstract |
平成25年度は、当該分野における大きな進展を、二つもたらすことに成功した。以下、それぞれに関して詳述する。 まず、イデアル配置の自由性に関する結果について述べる。イデアルとは、正ルート全体に半順序構造を入れた際に自然に定義される対象である。そのイデアルに属するルート超平面たちの集合を、イデアル配置と呼ぶ。私はMohamed Barakat氏、Michael Cuntz氏、Torsten Hoge氏及び寺尾宏明氏との共同研究として、このイデアル配置が全て自由配置となること、及びその指標が、イデアルに属するルートの高さ分布の双対分割として与えられることを示した。前者も驚きの結果であるが、後者は更に注目すべきものである。即ちこの双対分割定理は、ルート系全体と対応するワイル配置の場合には、A. Shapiro及びR. Steinbergの、ルート系の分類を用いた古典的な証明以降、B. KostantやI. G. Macdonaldといった著名な数学者たちが様々な手法で分類を用いず証明してきた、興味深い結果である。今回の結果はそれを、イデアルと対応するイデアル配置という大きなカテゴリに拡張することに成功した。結果、イデアルのルートの高さ分布の双対分割という整数列が、超平面配置の補空間のトポロジーを用いて意味づけ可能である、という極めて興味深い結果をもたらした。証明中で、並列加除定理及びルートの高さの局所-大域接続定理など、有用かつそれら自身も興味深い結果を示したことも、本研究の意義深い点である。 もうひとつは、陶山大輔氏との共同研究として、A2型の全ての拡張型Shi及びCatalan配置の対数的ベクトル場の基底の具体的構成に成功した。抽象的、及び限定的な構成は存在したが、すべての対象に対する具体的構成に成功したのは、本結果が初めてである。今後、他のルート系に対しても同様の研究が派生することが期待され、先駆的な結果といえる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究目的のうち、自由性を用いた超平面配置の幾何学的理解に関しては、ルート系と関連した超平面配置を中心に、予想以上に大きく進展していると言える。以下、その理由を詳述する。 今回、イデアル配置とその自由性に関する研究に成功したことは、本研究目的において非常に大きな進展である。研究実績欄でも強調したが、本結果は単にワイル配置中に多くの自由部分配置を見つけたことのみにとどまるものではない。自由配置であるイデアル配置を定義するルートたちの高さ分布の双対分割という、一件無意味に見える量が、実はイデアル配置の補空間のポアンカレ多項式と密接に結びついている、という極めて非自明な事実をも明らかにしたことになる。かねてから経験的、及び実験的には知られていた、自由配置が超平面配置において、代数学と幾何学を結びつける対象である、という哲学は、本結果により更に強固に補強されたといえ、私が本研究計画及び目的に記載した方向性が正しかったことが実証されたと言っても、過言ではない。 更に、いまだ準備段階ゆえ研究実績欄には記載していないが、ある種の超平面配置の幾何学と、それが定める対数的ベクトル場のjumping lineとの深い関係に関する研究も順調に進展しており、現在最終的なまとめの段階に入りつつある。これは代数幾何学を用いた超平面配置の解析に関する、基本的でありながら大きな進展となることは疑いない。このような準備段階の研究の存在もまた、本研究計画の順調な進捗状況を反映している。 これらの根拠に基づき、本研究課題は当初の研究計画以上に進展している、と考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画であるが、四年計画のうち最初の二年の計画が予想以上に進展したため、更にそれを進展させるべく、いままでの研究方針を推し進めてゆこうと考えている。具体的には、以下のような方針を考えている。 まず、代数幾何学及びベクトル束を用いた、直線配置の幾何学の研究に関してであるが、これは上述した、対数的ベクトル場のjumping lineと元々の幾何学に関する関連性を探る研究が順調に進行している。いまはまだ、特定の配置以外では研究を行っていないが、本研究中で他の対象に対しても有効に働くであろう様々な定理が得られたので、それらを当てはめつつ実験的に他の対象を研究しながら、更なる発展を目指してゆこうと考えている。 ルート系に関連した研究については、イデアル配置の自由性に関する結果から多くの派生研究が見込まれる。イデアル配置以外で、高さ分布の双対分割が成立するカテゴリの探索を行うことが、基本的ではあるが重要な研究方針である。例えばイデアル配置に対応するルートをワイル群作用で移したものも同様の性質を持つが、この集合の幾何学的特徴づけは簡単ではなく、興味深い問題と考えている。 更に、表現論の専門家たちとチームを構成し、ルート系に関連する超平面配置の研究に、表現論的な視点を導入する研究も、現在開始している。まだ未成熟な部分も多いが、この方針が結実すれば、研究目標として掲げていた自由性の幾何学的理解に大きな進展をもたらすことが確実な、有望な研究方針である。 このように非常に順調に研究が進展しているため、平成26年度における研究の更なる進捗状況次第では、新たな研究段階に移るための科研費終了前の前年度応募なども視野に入れつつ、研究を推進し、研究体制を整備してゆこうと考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究計画によって得られた研究成果を、各所で研究発表し、本研究課題の認知度を高めるとともに、様々な研究者との交流を通して、多岐にわたる情報収集及び新しい知見を取り入れるため、国内及び海外旅費を適当と思われる額、計上していた。ところが、予想より研究が大きく進展し、それらの研究成果が高く評価されたため、本補助金を使用することなく、先方負担により研究集会やセミナーに招待されるケースが多かった。結果、本補助金の使用を抑えつつ、十分な情報収集などを実行できた。このような事情により、当初の予想より旅費を使用せずに済んだことが、次年度使用額が生じたもっとも大きな理由である。 四年計画のうち、最初の二年間で予想以上に研究が進展したため、それらを発表する機会が平成26年度は、海外を含めて多く予定されている。そのため、それらの旅費として、基金として繰り越した補助金を使用する予定である。さらに平成26年度以降は、表現論と関連する研究にも新しく着手する予定である。しかしながら、表現論の専門家たちに対して、本研究課題の認知度はさほど高くないため、こちらからコンタクトを取り議論及び研究発表を行う、あるいは適切な当該分野の研究集会に参加するなどして、当該分野における様々な接点の構築及び、情報収集を行うことを考えている。
|
Research Products
(9 results)