2013 Fiscal Year Research-status Report
多次元輻射流体計算を用いたガンマ線バーストジェットの研究
Project/Area Number |
24740165
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
長倉 洋樹 京都大学, 基礎物理学研究所, 研究員 (00616667)
|
Keywords | 相対論 / ガンマー線バースト / ジェット |
Research Abstract |
本研究では多次元相対論的輻射流体コードを作成し、これを用いて大質量星の終焉またはコンパクト星連星合体後に形成されると考えられる、相対論的ジェットの星間中での伝搬計算を行う事を課題としている。昨年度は、相対論的輻射流体コードの開発に取り組みつつ、コンパクト星連星合体後のエジェクタ中での相対論的ジェット伝搬の流体計算を行い、これを論文にまとめた。 相対論的輻射流体計算の開発は、当初予定していたM1 Closureを用いたアプローチではなく、現在はより厳密なボルツマン方程式に基づいた定式化及び数値アルゴリズムの開発を行っている。相対論的輻射流体計算は、ビーミング及びエネルギーシフトの2つの相対論的効果を考慮しながら、物質と輻射場の相互作用と、輻射輸送の式を同時に解くものである。これまでの研究での輻射流体コードは、v/cの展開に基づいた定式化をしているものがほとんどであるが、ガンマー線バーストは光速の99%以上の速さのジェットであるため、これまでの手法は全く使えない。そのため、相対論的効果を完全に取り扱える新たな手法を開発する必要があった。さらに、エネルギーシフトの取り扱いは大変難しく、不適切な手法を用いると、途端に数値不安定を起こし計算がクラッシュしてしまう。昨年度は、この問題の解決に奮闘し、基本的な問題を全てクリアした。現在この新たに開発した相対論的輻射流体の定式化及び数値アルゴリズムについて、論文を執筆中である。 これと並行して、中性子星連星合体後の相対論的ジェットの流体計算を行った。本計算を行う事でショートガンマー線バーストの、ジェットの絞りの起源となるうる、重要な結果を得た。本研究は既にAstrophysical Journal Lettersに投稿し、論文は受理されている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、輻射流体コードの開発を基盤とし、また相対論的ジェット計算を用いてガンマー線バーストの起源に迫る研究を行っている。M1 Closureを基にした手法を用いる場合に、輻射輸送パートを解く時に数値的に重大な問題が起こることが起こり、現在はより第一原理的に近いボルツマン方程式の解法に基づいたコード開発を行っている。しかしこのアプローチでもまた、輻射流体コードの開発は、相対論的な効果を取り入れる事が大変難しく、この開発に昨年度は多くの時間を割いた。しかしながら、新たに開発したコードが、多次元的な輻射輸送計算のチェック及び、流体とカップルした計算が、非常に精度よく計算できる事を確認した。このようにコード開発に時間がかかってしまう事は、本研究課題に取り組み始めた当初から想定内であり、概ね研究の進行は予定通りである。現在のテスト計算は、主にニュートリノ輻射場に対して行っているため、現在執筆中の論文はニュートリノ輻射流体計算についてである。これを光子場に適用し、ガンマー線バースト計算に使える形に整備する必要があり、これを行った後に論文を執筆しようと考えている。 また、上記の輻射流体コードの開発を行いつつ、相対論的多次元流体コードを用いたジェット計算によって、中性子星連星合体からのジェットが、ショートガンマー線バーストの起源になりうる事を示唆した。本結果を、より統計的に調査し、現実のショートガンマー線バーストの観測との比較を検討しようというプロジェクトも走り出している。上記の理由から、本研究がおおむね順調に進展しているという自己評価に至った。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進において、最も優先度の高い課題は、現在執筆中の論文をまとめることである。現在執筆中の論文は、2部に分かれており、一部は輻射流体計算における相対論化の定式化及び数値アルゴリズムについて紹介し、二部は、実際にこの手法を用いた輻射流体計算をデモンストレーションしているものである。これらは投稿間近であり、近日中に終えるよていである。 その次の課題は、コードのチューニング及び並列化作業である。これを行う事は、実際の大規模なスーパーコンピュータを用いたジェット計算を行う上では必要不可欠な事であり、今年度はこの作業を行う。またそれに並行して、現在の相対論的流体コードを用いたジェット伝搬計算により、ショートガンマー線バーストからのジェット伝搬の統計的なスタディーも行う。 本研究とさらに並行して走っているのが、東北大学と共同研究で進めている、モンテカルロ法に基づいた輻射流体コードの開発である。モンテカルロ法による輻射場の数値解法は、現在私が用いている輻射流体コードと、全く違ったアプローチをしているため、互いのコードのチェックとなり、かつ、それぞれの長所を生かした解析を行える。具体的には、非熱的なエネルギースペクトルを解くには、モンテカルロ法を用いた方が、計算しやすいと考えられている。本研究も、順調にコード開発が進み、テスト計算は順調に進行し、既に論文の執筆作業に入っている。 今年度の上半期は、これら論文執筆作業に取り組み、コードのチューニング及び並列化は後期に集中して行う予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は主にコード開発を集中して行ったため、当初予定していた国際学会への参加を見送った。それにより、国際学会渡航費用に余りがでることとなった。また、連星中性子星合体のジェット伝搬以外の論文掲載費用を、早稲田大学の山田章一氏の科研費によって賄っていただいたため、これらによって昨年度の使用額が抑えられる事となった。 ようやく昨年度末にコード開発も終わり、さらに相対論的流体計算による中性子星連星合体後のジェット計算において、非常に良い結果が得られたため、本年に多くの国際学会に出席する予定である。既に6月のフランスのパリで開かれるガンマー線バースト研究会を始め、9月のスペインで開かれるRelativity Meetingなどに参加を予定している。次年度使用額は、主にこの渡航費に充てたいと考えている。また、今後の大量の計算データを保存するために、10T以上のハードディスクの購入を検討している。
|
Research Products
(10 results)