2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24750013
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
赤井 伸行 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50452008)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | プロトン性イオン液体 / 蒸発機構 / 赤外分光 / 量子化学計算 / イオン対構造 |
Research Abstract |
プロトン性イオン液体はプロトンがカチオンからアニオンへ移動した中性の酸と塩基と分子として蒸発するとされているが,強酸―強塩基からなるプロトン性イオン液体では非プロトン性イオン液体に類似してアニオンとカチオンが対となった中性イオン対として蒸発する可能性が考えられる。そこで本研究課題では,さまざまな酸と塩基からなるプロトン性イオン液体を高真空化で蒸発させ,急速に希ガス固体中に凍結させることで,蒸発直後の分子(あるいはイオン対)の分子種道程・構造決定を分光測定によっておこなうことを目的とした。 本年度は強酸であるトリフルオロメチルサルフェイトや弱酸である酢酸と強塩基であるトリメチルグアニジンや弱塩基であるイミダゾールを混合し合成したプロトン性イオン液体を用いた実験を行った。その結果,ほとんどのプロトン性イオン液体は既報通りに,酸と塩基がそれぞれ単独に蒸発することが確認できた。その一方で,ある種の強酸ー強塩基の組み合わせからなるプロトン性イオン液体では,元の酸や塩基の蒸発は観測されず,アニオンとカチオンが1対1からなる中性イオン対として蒸発していることが示唆された。赤外分光測定を量子化学計算を用いて解析したところ,気相における非プロトン性イオン液体で観測されたイオン対構造と類似したプロトン性イオン液体のイオン対を確認知ることができた。また,加熱温度を上昇させることで,イオン対だけではなく酸と塩基もわずかに観測されることがわかった。これは溶液内におけるイオン対と酸・塩基間の平衡状態に由来すると考えられ、現在その蒸発機構の解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年2月に東京工業大学院理工学研究科化学専攻から東京農工大学院BASEへと転出したことによって実験環境に大きな変化があった。具体的には、農工大への装置移管が平成25年3月になったことで、新たな所属先でのメイン実験システムの立ち上げができず、東京工業大学まで実験を行いに出向く必要があった。そのため予定していた実験を行うことができなかった。また,新たな研究室立ち上げという状況から,移転先での実験環境の整備がほとんど行うことができなかった。そのような状況であったため、当該年度の研究は前所属先の修士・学部学生に負う部分が大きかった。 実験装置は2013年3月にメイン実験装置の移転が完了し,同4月より東京農工大学での実験を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年3月に移転が終了したマトリックス単離赤外分光装置に当該年度に購入したラマンレーザーと小型検出器を装備し,極低温希ガス固体中に単離させたイオン液体(イオン対)のラマン測定を試みる計画である。今までの赤外分光法では検出器の感度限界から600cm-1以下の低振動数領域の分光測定が不可能であったが,低振動数領域はイオン対構造を鋭敏に反映する分子間振動やアルキル差コンホメーションに関する情報が豊富に含まれている。そこで,新たにラマン分光測定を行うことで,これまでは蒸発イオン対の構造として決定できなかった複数種のイオン液体構造について解析できると考えている。 また,プロトン性イオン液体の特徴として,酸-塩基(あるいはアニオン-カチオン)間でプロトンが移動可能である。溶液中のプロトン移動は通常の振動分光法では追跡できないが,気相に単離した状態であれば、どのような対構造や条件でプロトン移動が発生するかわかる可能性がある。そこで,酸と塩基それぞれを希ガスに希釈した状態で気相混合させ,任意の混合時間ごとに低温凍結させることで気相でのプロトン移動機構を明らかにしたいと考えている。これは,当該年度の実験結果から示唆された,強酸―強塩基プロトン性イオン液体は高温蒸発ではイオン対だけではなく酸と塩基も蒸発するという蒸発機構を裏付けるものであると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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