2012 Fiscal Year Research-status Report
作用誘導型量子分子動力学法による窒化ホウ素フラーレン成長機構の理論的研究
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24750018
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
太田 靖人 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (30447916)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 分子動力学 / 第一原理 / 量子化学 / 窒化ホウ素 / フラーレン / ADMD |
Research Abstract |
開発したADMD計算法にMOPAC2012ソフトウェアをドッキングさせ、PM6やPM7などの半経験的電子状態計算法に基づいた力場を利用する量子化学ADMD計算プログラムを開発した。開発したプログラムをBxNy(x=1-4,y=1-3)鎖状窒化ホウ素クラスターにおける内部変換、窒素分子の脱離過程、およびハロゲン化合物のSn2反応(F+CH3Cl→FCH3+Cl)など実在系の反応ダイナミクスに適用した。 ADMD計算の結果、鎖状窒化ホウ素クラスターの高温ダイナミクスではクラスターが特定の振動モードを励起させながら、始状態から終状態へ向け分子の鎖状骨格を変化させていく様子や設定温度を変えることによって、温度に依存したダイナミクスが得られるなど、通常の遷移状態計算で得られる静的な固有反応座標では見られない振る舞いが観察された。またハロゲン化合物のSn2反応では反応の前後をつなぐポテンシャルエネルギー障壁の形状が非対称となるトラジェクトリ-が得られるなど、ハロゲン原子の引き抜きが起こる前後でユニークな振る舞いを示すトラジェクトリ-が得られることがわかった。 ADMD計算では、始状態と終状態のみのジオメトリーと、反応時間や反応温度などのいくつかの簡単なパラメータの入力だけで、終状態の形成につながる温度効果を含んだ反応ダイナミクスのトラジェクトリーが得られる。本計算法で得られた成果はタンパク質のホールディングや表面に吸着した分子集団の会合過程など、分子間の結合・開裂を断続的に含むような様々な自己組織化過程へ適用できるものであり、分子レベルのダイナミクスを理解する計算ツールとして大変意義の大きいものであるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画ではADMD法にNose-Hoover chain thermostatを接続して分子の反応過程における温度制御を試みる予定であった。しかしながら、Nose-Hoover chain thermostatの理論で用いられる仮想系の保存量には、時間スケーリングパラメータが含まれており、このパラメータの存在がNose-Hoover chain thermostatをADMD法へ組み込むことを難しくしている。そのため、ADMD計算における温度制御に関しては運動エネルギーの時間平均に関する束縛条件を目的汎関数に課す比較的簡便な方法に変更し、プログラムの開発を行った。また、ADMD計算では分子ダイナミクスが複雑になるほど、得られる解の初期値依存性が顕著になり、かなり非物理的な局所的極小値に落ちこみやすくなる傾向が見られ、今後はより確実に大域的極小解に導く方法を組み込んでいくことが重要であることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
○H24年度までに開発したADMD計算法の目的汎関数の最小化にシミュレーテッド・アニーリング法または微分進化法などを組み込み、大域的極小解の探索に適したプログラム開発を行う。 ○シミュレーテッド・アニーリング法と共役勾配法を状況に応じて使い分けるアルゴリズムも適用することにより、より柔軟に目的汎関数の極小探索を遂行できるプログラム開発も行う。 ○シミュレーテッド・アニーリング法では計算コストが大きくなるので、第一原理電子状態計算や半経験的電子状態計算から力場を得る計算方法だけでなく、Tersoff型の分子力学をもとにした解析的ポテンシャルをベースにしたADMD計算プログラムの開発を行い、より原子数の多い窒化ホウ素系への拡張も視野に入れる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
①当該研究費が生じた状況 H24年度中に文房具類(ボールペンやノート)を購入する予定であったが、H25年度に見送ったため、382円の残額が生じた。 ②次年度の研究費の使用計画 4色ボールペンを購入する予定である。
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