2012 Fiscal Year Research-status Report
動的8配位型サイクレン―金属錯体を基盤とした環状ホスト分子の高次機能化
Project/Area Number |
24750133
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
伊藤 宏 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任講師 (90506734)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 超分子化学 / 金属錯体 / サイクレン / 分子認識 |
Research Abstract |
本研究では8配位型サイクレン―金属錯体を基盤とした環状ホスト分子を構築し、その内部空間を利用した分子認識及び機能発現を目指している。平成24年度は、以下に示す環状ホスト分子の構築と環状ホスト分子の部分構造を用いた分子認識やスイッチング機能の発現を行った。 (1)環状ホスト分子の構築:種々のアミド型8配位サイクレン錯体の側鎖にリンカー部位を導入することにより、環状ホスト分子の構築を行った。リンカー部位としてp-キシリレニル基を2ヶ所に有する環状ホスト分子の合成を行い、その前駆体の分子構造を単結晶X線構造解析で明らかにした。また、ボロン酸エステル誘導体を4ヶ所に有する環状ホスト分子や、配位結合を利用したホスト分子の合成を行った。 (2)環状ホストの部分構造へのキラリティー転写:環状ホスト分子の半構造を有する8配位型サイクレン―金属錯体を用いて、外部キラル分子による分子運動や誘起キラリティーの制御を行った。中心金属の種類はサイクレン錯体の構造にほとんど影響を与えない一方で、外部アニオンとの相互作用に大きく影響を与える事が明らかとなった。側鎖にクマリン部位を有するCa(II)錯体は優れたキラルプローブとして働き、配位性/非配位性キラルアニオンとの相互作用によりサイクレン錯体へとキラリティーを転写できる事が明らかとなった。 (3)環状ホスト部分構造を用いたキラリティースイッチング:環状ホスト分子の半構造を有する8配位型サイクレン―Ca(II)錯体に対して、キラルアミノ酸アニオンとTMS-ジアゾメタンを交互に加えることにより、外部キラルアニオンの中心金属への配位のオン―オフを制御し、キラルプロペラ構造の誘起→消去→再誘起を繰り返す事に成功した。 これらの結果を利用することにより、今後配位性/非配位性のアニオンを利用した環状ホスト分子の構造や運動を制御可能だと期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は8配位型サイクレン―金属錯体をビルディングブロックとした環状ホスト分子の合成を主目的として研究を行った。当初の計画に沿って、リンカー部位の異なった三種類(共有結合・水素結合・配位結合)の環状ホスト分子を平行して検討することにより、迅速な環状ホスト合成を目指した。その結果、共有結合型リンカーを用いることにより、2種4種類の環状ホスト分子が合成できる事を明らかにした。具体的には、アミド型8配位サイクレンを基盤として、2ヶ所をキシリレン架橋した種々の環状分子と、4ヶ所をボロン酸エステル構造で架橋した環状分子を合成した。前者に関しては前駆体の単結晶X線構造解析により、目的の環状構造を有している事が明らかにした。一般に共有結合型環状ホスト分子の合成は収率が低く、また単離が困難であるが、現在までに効率的な合成経路を確立し、原料供給の目処をつけた。 一方で、環状ホスト分子の部分構造を用いたキラリティー認識やスイッチングについて2つの新しい知見が得られた。1つは、サイクレン錯体へのキラリティー誘起が、中心金属への配位だけでなくイオン対形成によっても行えること、もう1つはキラルアニオンの配位を化学反応により制御することにより、誘起キラリティーのスイッチングが行えるという事である。これらの発見を目的とする環状ホスト分子に適用することにより、キラル分子の動的な構造制御や分子認識が達成されると期待される。これらの成果は既に主要ジャーナルに2報の論文を発表している。
|
Strategy for Future Research Activity |
年次計画に沿い、得られた環状ホスト分子の機能について詳細な解析を行い、以下に示す分子認識場・反応場としての応用を目指す。 【ゲスト分子の包接と構造変化】ゲスト分子を包接させる事により、8配位型サイクレン―金属錯体特有のホスト分子の構造変化を明らかとすると同時に、ゲスト分子のホスト内での位置選択的固定を目指す。例えば、環状ホスト分子内にキラルジカルボン酸など、末端2ヶ所に金属配位部位を有するキラルゲストを包接させることによりホスト分子にキラリティーを誘起したり、環状ホスト内の金属間距離に対して短い分子を導入することによりホスト分子に伸縮運動を誘起する。 【2分子包接とその応用】2つのゲスト分子を環状ホスト分子に取り込み、位置や配向が固定される条件を見出した後に、そのゲスト分子の特性に応じて次の応用研究を適宜行う。 [加水分解触媒]金属カチオンなどの分子認識部位と加水分解反応部位を有する種々のゲスト分子の触媒的加水分解を行い、反応速度とゲスト分子の構造・大きさとの相関を調べる。[位置立体選択的反応]2つの反応基質が環状ホストの両端の金属カチオンに強く配位している場合、通常の反応条件では種々の異性体が生成してしまう反応を環状ホスト内で行う事により、位置や立体構造の制御した反応が達成されると期待される。そのような反応として、2-アントラセンカルボン酸の光二量化反応やトリアゾール環合成を予定している。[任意の2分子の包接および選択的反応]特に、非対称水素結合型環状ホストを用いた場合には、ホスト内に任意の2分子を取込むことが可能だと期待される。そこで、ホスト内でクロスカップリング反応を試みる。また、2種類の異なった色素が近接することにより、ホスト分子の構造変化やエキシプレックス発光が起こる。そこで、種々の色素分子の組合せをホスト中に取込み、これらの機能発現も同時に目指す。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、これまでに得られた環状ホスト分子を物性測定に関して中心に予算を使用する。特に、効率的に研究を進めるため、原料合成及び分析用の微量試薬や部品の購入を行う予定である。 【物品費】備品としては大きな実験器具の購入は行なわず、測定用の実験器具(特殊セル・修飾ゲル・分析用カラムなど)を中心に購入を予定している。その他の消耗品として、希土類試薬や原料のサイクレンの追加購入だけでなく、迅速に研究の推進のために、これまで合成を行なっていた前駆体の購入や、外部キラリティーとしてのキラル試薬を購入する予定である。 【旅費】平成25年度は国内外の学会に参加し、平成24年度の研究結果を含めて発表を行い、研究の議論を深めるとともに新たなる展開を探索する。現時点では1~2件の国内学会と1件の国際学会への参加を予定している。 【その他】微結晶のX線結晶構造解析などの特殊な分析が必要な際には適宜依頼測定を行なう予定である。
|
Research Products
(3 results)