2012 Fiscal Year Research-status Report
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24760035
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大野 誠吾 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70435634)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | メタマテリアル / テラヘルツ波 |
Research Abstract |
本研究では、半導体基板上にパターン化した光を照射し、それによって生成される光励起キャリア分布を利用することでプログラム可能なテラヘルツ(THz)帯「メタマテリアル回路」を作製し、THz光を動的に変調することを目的としている。半導体基板上に、金属アイランド構造を配置することで、キャリア拡散によるキャリア分布のコントラスト低下の影響を防ぐ。 本年度は主に基礎研究として、基板に用いる半導体材料の探索、光パターン照射用光学系の構築、シミュレーションソフトの導入を行った。さらに、予備実験として静的な金属アイランド構造を作製し、そのTHz光学応答を調べた。 材料探索の点では、半導体基板としてSi、GaAsが候補として残った。Siの特徴としてはキャリア寿命が比較的長く、連続波による光励起に向いていることがわかった。逆にGaAsは寿命が短い分キャリア拡散の影響が限定的に抑えられより、コントラストの高いキャリア分布の作成に向いている。実験では、半導体基板上のキャリア密度の分布を光励起により生成するために、パターンジェネレータとしてDLP素子を用いる。本年度はDLPを制御するためのプログラムおよび光学系を構築した。これにより、所望のパターンの光が基板上に5 mm x5 mmの範囲に照射可能である。シミュレーターとしてFDTDシミュレーションソフトを導入し、THz帯のメタマテリアル構造を設計、評価できるようになった。 本年度は、半導体基板上に作製したレジスト構造に金属を斜め蒸着することでレジスト-金属アイランド構造を実際に作成した。この構造は、1-2THzに共鳴的なスペクトルを持つことが実験からわかった。この特性はFDTDシミュレーションでも再現でき、それを解析することで共鳴は磁気応答に由来することが分かった。この内容は6月に開催される国際会議CLEO-PR2013にて発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度の計画ではプログラマブルメタマテリアル回路作成のための金属アイランド構造の作成、およびその評価のための光励起THzプローブ測定用の光学系の構築を当初計画していた。 金属アイランド構造の作成について、当初、半導体基板上に金属膜を製膜し、それをフォトリソグラフィーにより、金属のみのアイランド構造の作成を予定していた。しかし、エッチングプロセスが不要なアイランド構造の作製方法として半導体基板上に作製したフォトレジスト構造上に、金属を斜め蒸着する方法を導入することで、より簡便にアイランド構造が作れることがわかった。また、付加的な効果としてそのように作製したレジスト-金属アイランド構造が、あたかもメタマテリアル構造として代表的な分割リング共振器(SRR)構造として機能し、それのみで磁気応答をすることがわかった。これは当初予定していなかった発展的な変更点の一つである。 また、光学系の構築に関連して、実施計画を変更した。その理由として、DLP開発キットの大幅な低価格化が挙げられる。計画当初で購入を予定していたDLPの開発キットと同等品(少なくとも本研究の使用範囲で)が見積額の10分の1以下の価格にて入手可能になった。これをTHz時間領域分光法の測定系に組み込むことで、任意の光パターンで半導体基板を励起することが可能となる。現在、5 mm x 5 mmの範囲に励起光を照射可能であるが、パターンの差異による信号の変化検出実験までには至っていない。また、安価なDLP開発キットを導入したことにより、予算申請時には計画に盛り込んでいたが実施計画において購入を断念した市販の電磁界解析ソフトを導入した。上述のSRR構造の磁気応答はこのシミュレーションから明らかになった。 以上のことから、当初予定していた計画とは異なり、遅延が生じている部分もあるものの、おおむね発展的に計画が遂行できている。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度に作製した半導体基板上のレジスト-金属アイランド構造自体の持つ磁気応答について、6月末から開催される国際会議CLEO-PR2013にて発表する予定であり、すでに査読を終え、受理の連絡を受けている。 実験的に明らかにすることとして、プログラマブルメタマテリアル回路に、実際に光パターンを照射し、それによるテラヘルツ光学応答の変化を調べる。光を照射して調べる構造は、主にワイヤーグリッド構造、カイラル構造、分割リング共振器構造の3つである。ワイヤーグリッド構造に対しては、検光子としての働きが期待されるため、透過後のテラヘルツ光の偏光方向を各波長ごとに調べる必要がある。カイラル構造についても偏光特性、特に偏光度といった円偏光特性に注目した波形解析を行う。分割リング共振器構造に関しては、従来の計画通り、分割リング構造を基板平面上に照射する方法も考えられるが、本研究で明らかになったレジスト+金属アイランドの磁気共鳴の方を光励起により変調することで、より簡便にメタマテリアル構造を利用したテラヘルツ光の変調が実現できる可能性があり、その検証実験を優先的に行う。 さらに、これらの結果が良好であった場合、空間的に照射パターンを変化させることでメタ表面を実現し、それに付随したテラヘルツ変調効果(位相アレイアンテナの可能性など)を模索し、今後の研究発展へとつなげる。逆に、上述の実験を行って、期待する変調効果が得られなかった場合、電磁界シミュレータによりどのような条件であれば、変調効果が実現するのかを明らかにし、構造の設計に対してフィードバックをかける。 これらの結果は9月、来年3月に開催される応用物理学会にて報告し、論文にまとめる。特に今後開発が予想されるCW THz光源に対してこのような変調方法がどのようなメリットを持つのかを明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
6月末から京都にて開催される国際会議CLEO-PR2013において、レジスト-金属アイランド構造の磁気応答について発表する。この内容は計画当初予定していなかったので、次年度使用額については会議の参加費用、出張費用に充填する予定である。
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Research Products
(1 results)