2012 Fiscal Year Research-status Report
建物の長寿命化を実現する維持改修プロセスに関する研究
Project/Area Number |
24760486
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
江口 亨 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 助教 (60599223)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ストック活用 / 長寿命化 / 建築構法 / 耐震改修 |
Research Abstract |
平成24年度の実績について、2つの研究の観点から概説する。 第一に、建物の「寿命を決定づける社会的な影響因子」について説明する。まず、閉鎖された社宅の活用可能性の検討と、その実現に向けた課題について考察した。これにより、社宅活用の可能性を抑制する主な要因としては、社宅所有者が積極的に活用を検討していないことや、社宅が一般市場に流通しないこと、自治体の関心の低さなどが挙げられた。次に、建物の改修事業を実行する主体に関する研究として、賃貸用建物の改装を扱う建築設計施工会社を対象として調査を行った。これより、改装に必要なノウハウとして、「CM・工事監理」、「建物のリスク把握」、「建築確認」、「施工前調査」に着目し、それらのノウハウ獲得に至った過程を整理した。 第二に、「建物の物理的な分割の有効性」について説明する。まず、中小規模鉄骨造建物における乾式構法の外壁に着目し、改修の選択肢の拡大のために解決すべき構法上の問題点を明らかにすることを目的とした研究を行った。これより、建物の外壁を取り替える際、最も問題が多い部位とその解決策の方針を明らかにした。次に、中小ビルの内装改修工事を対象とし、在来職種で構成された現場の作業実態の調査を行った。この調査は、建物を分割して内装のみを交換する方法論を想定しており、それを実施する施工段階における課題に注目したものである。これにより、ある専門工事業者が複数の職能を兼務する「多能工化」による施工合理性を検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画した調査が実施できなかったものもあるが、予定していなかった調査が実施できたものもあり、全体として、おおむね順調に進展している。 「寿命を決定づける社会的な影響因子」に関する研究は、予定よりも遅れている。その理由として、当初予定していたヒアリング調査が実施できなかったことがある。具体的には、維持管理の業務経験者へのヒアリングは、研究の協力を得ることが困難であったため、実施できなかった。 ただ、当初は予定していなかったヒアリングが実施することができ、次年度につながる一定の成果が得られた。具体的には、改装事業に新規参入した企業から協力を得ることができ、日本におけるストック型産業の構築にあたり貴重な知見を得た。 一方、「建物の物理的な分割の有効性」に関する研究は、当初予定していた研究方法とは異なるが、むしろより望ましい方法で実施することが出来た。具体的には、外壁を対象とした調査において、各業界団体と主要な外装材メーカーから協力を得ることが出来た。また、中小ビルの内装改修の現場調査を実施することができ、通常は得ることの難しい工事業者の作業効率に関する情報を元に研究を行うことが出来た。 次年度も、上記2つの観点からの調査研究を継続して行い、より多くの知見を蓄積していく計画である。特に、「寿命を決定づける社会的な影響因子」に関する研究に重点を置くこととする。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で明らかにしようとしているのは、「a:寿命を決定づける社会的な影響因子」、「b:建物の物理的な分割の有効性」、「c:オープンビルディングの理論における意思決定モデルの可能性」についてである。このうち、最も研究が進んでいるのが「b」であるので、今後は、「a」と「c」に力点を置いた研究を進めていく。具体的には、まず「a」の研究蓄積をした上で、「c」に関する考察を行う。 計画している調査として、まず、改修事業における専門家と利用者の役割に関するヒアリング調査がある。都心部において、これまでは単発的であった利用者主体の改修事業が、徐々に面的な広がりを持って拡大しており、この動きがこれからのストック型産業を構築していく上でのモデルになると捉えている。そこで、これらの改修事業における専門家としての建築設計者の役割と、施主やテナントを含む利害関係者との関係について考察を行う。 次に、計画していたように、イギリス国内での建物の長寿命化に関する実践状況を把握するための調査を実施するである。 これらの研究成果を整理しつつ、建物の長寿命化の利害関係者を対象とした、意思決定ルーツの開発を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究費の一部を次年度に繰り越して使用するが、その理由は、ヒアリングの実施が計画通りに行えなかったので、予定していた旅費を使用しなかったからである。 当初想定していたヒアリング対象者からの協力を得ることが難しくなり、別の対象を選定することになった。そして、今年度の調査を通じて、新たな調査対象を見つけることができたため、次年度に出張を伴う調査を実施する。
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