2012 Fiscal Year Research-status Report
氾濫源-沼-潟における水際の居住と「社会的技術」に関する史的研究
Project/Area Number |
24760515
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
松田 法子 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 講師 (00621749)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 都市史 |
Research Abstract |
平成24年度には、日本最大級の低湿地・沼沢地・氾濫原であった蒲原における農業集落の形成史を、自然堤防上・砂丘列上・低湿地上など、立地の地形条件と絡めて編年的に明らかにした。とくにそのなかでは集落形成と同一の過程として展開された水の制御にかかわる土木技術と、その構築および維持にかかわる社会構造の展開に注目し、マクロ・メゾ・ミクロの3つのスケールを設定して調査を行った。 〔マクロスケール〕レベルの検討については、縄文中期・古墳時代・室町時代の三段階で形成された砂丘列とその間の低湿地・潟湖からなる地形について、これまでに発表されている既往研究を網羅的に収集・検討するとともに、低砂丘や潟湖の縁の微高地なども可視化するための微地形地図を製作した。この地図を携えて現地調査を行い、集落の立地や形状、道・水路・家屋などがいかに微地形に即して配置されているかについて記録を行った。また、各集落の形成期について悉皆的に把握し、その立地・地形とあわせて類型的把握を行った。 〔メゾスケール〕については、輪中地域各村における江丸・囲・江・堰などの水の把握・制御・分配システムの歴史的形成過程についてアプローチするべく、『亀田郷治水史』(1966年)、『亀田郷土地改良誌』(1976年)などに収録されている基礎的史料の読解・分析を行い、今後の分析に道筋をつけると共に、不足資料の洗い出しを行った。さらに野間春雄『低地の歴史生態システム』(関西大学出版部, 2009年)など、他分野で近年報告された研究について学びながら、本研究への方法論的フィードバックをはかった。 〔ミクロスケール〕については、類型別の代表的集落について現地調査を行い、江-村道-宅地-建築(水倉・主屋)からなる伝統的空間構造の分析を進めた。その際には比較検討のため、新潟平野北部に所在する集落についても特徴的な類型について調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した「研究の目的」のうち、その概要に挙げた“水際における様々な居住形態を展開してきた日本の歴史的集住体(都市・集落)が、津波や洪水、氾濫などの水害に見舞われながらも、水の把握と制御によって水の恵みを享受してきた居住史に着目し、技術-空間-社会が統合された「社会的技術」とでもいうべき治水・防水システムについて新潟の事例研究を通じて探る”という内容について、概ね次の視点からおおむね順調に調査研究を進めたと考える。 1.インフラストラクチャーの再考 2.「インフラストラクチャー」論と“集住体の歴史”との連動的考察 3.技術論的水利・インフラ研究から/技術-空間-社会:「社会的技術」論の構築へ とくに本年度は「2」について、蒲原平野における集落の編年的考察から水利システムのありようについての遡及的検討を行った。蒲原平野における歴史的な水利システムの形成・維持と、集落形成・低湿地開発との有機的な関係からなる全体像を明らかにするにはさらなる史料収集と現地調査が必要であるが、調査研究の方針と進捗はおおむね良好と思われる。 また平成25年度に着手予定である沼垂・新潟都市部の調査についても既に一定の情報収集を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度には蒲原平野のうち、沼垂・新潟の都市部の分析にも着手する予定である。とくに蒲原平野の農業集落との関係性を主軸に調査を進める。これまでの調査では新潟など都市の商人資本と、蒲原や周辺低地部における沼地干拓など低湿地の開発との関係についていくつか興味深い事例を収集しており、それらを主軸に関係論的考察を行いたい。 ほか沼垂・新潟の町空間そのものに関する検討としては、平成24年度の調査手法同様に3つのスケールを設定して分析を行う予定である。 〔マクロスケール〕日本海・信濃川・阿賀野川に対する近世市街地の立地選定および都市建設の戦略・技術についての検討。砂丘・湖沼地帯における災厄の履歴の把握。 〔メゾスケール〕<新潟>日本最大級の港町として建設された近世新潟の計画理念と、そこに展開した社会=空間構造の解明。<沼垂>水害による移転の繰り返しから研ぎ澄まされ、近世港町の純化形態に到達した空間構造の解明。 〔ミクロスケール〕<新潟>都市内を縦横に貫通する運河と、3類型の道(運河に並行する「通町」、運河に直交する「小路」、街区内部を貫く「新道」)によって創出される都市空間構成の解明。<沼垂>「通○丁目」とナンバリングされた町が通りを挟んで直列し、各町の背後に運河が開削される、水と都市とのきわめて純化された関係の詳細分析。 以上について2回程度の現地調査を計画する。必要に応じて少人数での補足調査を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現地調査の旅費を中心に、新潟・沼垂両町に関する文献購入費、蒲原平野に関する書籍・資料追加購入費、また平成24年度の調査・検討を経て計上が必要と判断された、蒲原平野以外の新潟平野における低湿地・低湿地開発関係の文献・資料購入費を見込む。
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Research Products
(1 results)