2012 Fiscal Year Research-status Report
植物種間における開花期を越えた送粉者の共有による促進効果の検証
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24770025
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
川口 利奈 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 学術研究員 (80571835)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 送粉 / 種間相互作用 / 花形質 |
Research Abstract |
共通の送粉者を利用する植物種の間には、たとえ開花期がほとんど重ならなくても送粉者の引き継ぎによる促進的な相互作用が生じ得る。このような種間関係は、どのような花形質を持つ植物種が群集内で共存しやすいかを説明するうえで重要な鍵を握っていると考えられる。本研究は、(1) 異なる開花フェノロジー構造(どの時期にどの花が咲くか)のもとで送粉者の花形質への反応を調べる行動実験、(2) 実物の植物を用いて相対的に送粉者の引き継ぎが起こりやすい条件を調べる野外実験という2つのアプローチを組みあわせ、これまであまり着目されてこなかったが群集内での植物種の共存機構のひとつとして機能し得る、開花期を越えた送粉者の共有による促進効果を再評価することを目的としている。 24年度は主に、ツリフネソウの野外集団の開花終期に濃ピンクとオレンジ色のキンギョソウの鉢植えのパッチを近くに出現させ、花色のちがいによってツリフネソウからの送粉者(トラマルハナバチ)の引き継ぎの起こりやすさに違いがあるかを検証する実験をおこなった。その結果、(1)ツリフネソウの花色と似た濃ピンクのキンギョソウのパッチでは、オレンジのパッチにくらべてマルハナバチの訪問頻度が多く、(2)濃ピンクのキンギョソウは、オレンジのキンギョソウよりも稔実趣旨率が高い傾向がありそうだということがわかった。25年度に行う対照実験と追加実験によって、上記の結果がツリフネソウ(先行する開花種)とキンギョソウ(後から開花する種)の花色の類似度によるものだということが支持されれば、開花期のほとんど重なっていない植物種同士でも送粉者の記憶を介して互いの繁殖成功に影響を与え得ることを実証した貴重な研究成果となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年8月以降の調査地下見および野外実験遂行により、平成24年度は実験手法の検証と確立に専念し、翌25年度の同時期に規模を拡大して追加調査を行うことで効率的なデータ収集が可能と判断した。また、野外実験後に補助的なデータ収集を追加したため室内実験の準備に取りかかるのが遅れた
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Strategy for Future Research Activity |
(A)送粉者を介した花種間の相互作用に対する花色の類似度と開花フェノロジーの重複度の影響:前年度は野外実験に要する期間が想定より長く、その後にも補助的な実験をおこなったため、室内実験の準備に取りかかる時期が遅れてまとまったデータを収集するに至っていない。よって、25年度は前年度に計画していた、花色の似た花に対する送粉者の反応が開花期の重なり度合いによって変化するかどうかを検証する室内実験を進める。予備実験を5月頃に行い、本実験は11月末~1月頃に行う。実験の進行状況に応じて、当初25年度に計画していた、送粉者の引き継ぎやすさに対する花筒長の影響を調べる実験も行う。なお、当初より平成25年度は前年度の実験で十分なサンプルサイズが得られていない場合にはその続きを優先させることを想定しており、この変更が本来の研究の目的を損なうことはない。 (B)野外植物集団における送粉者の引き継ぎが起こりやすい条件の検証:当初の計画では、平成24年度に濃ピンク色の花を咲かせるツリフネソウの集団で、翌年度に黄色の花を咲かせるキツリフネの集団で同様の野外実験をおこない、結果を比較することによって、先行する開花種の花色が違うと後から咲く植物種における送粉者を引き継ぎやすい花色も変化するかどうかを検証する予定であった。しかし調査地下見では野外実験に使用できる規模のキツリフネ集団を見つけることができなった。よって当初の計画を見直す。まず、25年度は前年度と同時期(ツリフネソウの開花終期以降)に同様の実験を複数箇所で行い、結果の信頼度を高める。また、ツリフネソウの開花前にも同様の実験を行い、ツリフネソウの開花後にマルハナバチがオレンジのキンギョソウよりも濃ピンクのキンギョソウを多く訪問したという昨年度の実験結果が、本当に直前の開花種であるツリフネソウの影響によるものかどうかを検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年8月以降の調査地下見および野外実験遂行により、平成24年度は実験手法の検証と確立に専念し、翌25年度の同時期に規模を拡大して追加調査を行うことで効率的なデータ収集が可能と判断した。そのため、デジタルカメラの購入費用やアルバイト雇用経費の一部を翌年度に使用することとした。また、野外実験の下見や準備の期間と参加予定だった国際学会の日程が重複したため、国際学会への参加も翌年度に延期した。今年度の物品購入としては、野外実験に使用するキンギョソウの鉢植え、デジタルカメラ、交換用バッテリー、三脚、室内実験に使用するビデオカメラおよび人工花材料、映像・写真データ保存用の機器、そしてデータ解析および論文執筆に必要な研究資料を予定している。また、野外実験の実験補助やデータ解析補助のアルバイト雇用のための謝金、国内外の学会参加のための旅費としても助成金を使用する。
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