2012 Fiscal Year Research-status Report
非特異―特異複合体形成の動的構造解析による転写因子のDNA認識機構の解明
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24770106
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Research Institution | Suntory Foundation for Life Sciences |
Principal Investigator |
原田 英里砂 公益財団法人サントリー生命科学財団, 生物有機科学研究所, 研究員 (70541332)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | NMR |
Research Abstract |
sox2に緩和分散法を適応することで、遊離状態において大部分で低存在比状態があることが分かった。緩和分散法から求められたケミカルシフト差を、遊離状態と配列特異的DNA結合状態とのケミカルシフト差、または、遊離状態とランダムコイル状態とのケミカルシフト差と比較することにより、遊離状態での低存在比の構造はunfoldした構造であることを示した。詳細な解析を行うために温度依存性を調べたところ、温度上昇に伴い、2次元HSQCスペクトルそのものが大きく変化した。これは相同性が高いsox5のDNA結合ドメインで報告された蛍光やDSCから求められた物理化学的性質と同様であり、遊離状態での主構造それ自体が柔軟性に富んでいることを意味している。一方で、sox2と配列特異的DNAとの結合状態ではHSQCスペクトルそのものが温度によって変化することはなく、特異的結合状態の構造は固いことが分かった。しかしながら、特異的結合状態で存在すると思われなかった、低存在比の分子種の存在を高温状態において緩和分散法で観測した。ただし、遊離状態と違って、低存在比の状態を感度良く観測できる状態ではなく、どのような構造であるかの同定までは至らなかった。これらの結果から、特異的結合状態にあっても一部が揺らいでおり、sox2ではその揺らぎの割合が、遊離状態から結合状態にいたるにつれて変化していくことが予想できる。また、その結合過程において、unfoldした状態がDNA認識に対して寄与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
sox2のDNA結合ドメインは遊離状態では温度によって構造が著しく変化する一方で、配列特異的結合状態でも揺らぎが存在することを観測した。そのため、当初の予定であった配列特異・非特異的相互作用解析を通じたDNA認識機構の理解のためには、相互作用させるDNAの選定だけでなく、温度というin vivoでの環境因子を考慮する必要が出てきた。具体的には、ITC測定によってDNAとの相互作用パラメーターを決定することで、配列特異・非特異DNAの選定を行うことを予定していたが、in vivo条件を模した環境でのsox2の構造を捉えることが先決と考え、当初予定していなかった、動物細胞に目的蛋白質を導入することで細胞内に存在する蛋白質を直接観測するin-cell NMRの導入を試みた。in-cell NMRでは、通常のNMR実験よりも多くのタンパク質が必要であり、現在はin-cell NMR実験の標準タンパク質として、発現量が充分得られるGB1を使った条件検討を行なっている。上記の状況から、配列特異・非特異DNAの選定はできなかったが、新たな実験項目として、生体内環境を模倣した条件下でのNMR測定という項目に取り組んでいることを考慮すると、現在までの達成度としては当初の予定よりやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
配列特異的・非特異的相互作用解析を通じてsox2のDNA認識機構を解明するために、ターゲットとなるDNAの認識配列だけでなく、現在までの実験結果から、温度によって著しく変化する蛋白質の柔らかい構造も、認識機構の解明に寄与していると仮定した。そのため、今後の研究では生体内の環境を模倣するのにふさわしいin-cell条件下での蛋白質構造を観測することを目指す。 具体的には既に論文化されている手法に習い、Hela細胞(ヒト子宮頸癌由来細胞)にsox2を導入する。この手法では、目的のタンパク質にCPP(膜透過性ペプチド)配列をSS結合または、ユビキチン複合タンパク質として付加することで、細胞質へ導入し、細胞内の還元環境、あるいは細胞内在性の脱ユビキチン化酵素によってCPPを切り離し、主に細胞質内に局在するタンパク質をNMR信号として観測する。そのための発現系ベクターの構築及び、タンパク質の大量発現を行う。また、sox2のDNA結合ドメインのC末端に核移行配列が存在しているので、sox2だけの配列でも同様の実験を試みる。その際、タンパク質がどこに局在しているかを蛍光観測する。 以上の新しい実験項目の他に、当初の予定で示した、ITCによる種々のDNAとの巨視的相互作用パラメーターの決定、CDや蛍光を使っての蛋白質構造の巨視的な挙動の解析、NMRを使った残基レベルの動的構造解析、を行うことで、特異的・非特異的蛋白質-DNA相互作用を解析し、DNA認識機構の解明を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験用消耗品の購入が主である。具体的には、当初予定されていなかったin-cell NMRを行うにあたって、動物細胞培養に関わる培地などの試薬や、蛋白質を蛍光観測するための蛍光標識試薬を購入する。in-cell NMR実験用の新たなタンパク質発現系の構築のための、カスタムプライマーやベクターを購入する。また、種々のDNAとの相互作用解析のため、合成DNAを数100nmol~mmolスケールで購入する。必要に応じて安定同位体試薬も購入する。 また、旅費として、第36回日本分子生物学会、第52回NMR討論会への学会出張を計画している。
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Research Products
(1 results)