2012 Fiscal Year Research-status Report
肺の器官培養を用いたWntシグナルと頂底極性による細胞増殖制御機構の解析
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24770186
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
麓 勝己 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40467783)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | Wntシグナル / 肺 / 上皮組織 / 分岐形態形成 / 頂底極性 / 接着 |
Research Abstract |
本研究では、分岐を伴う上皮管腔組織の形態形成において、Wntシグナルが極性化及び細胞増殖をどのように制御しているかを明らかにすることを目的として、肺の肺上皮単独培養法を用いて組織学的、細胞生物学的な解析を行う。本年度は、1)肺上皮単独培養系に対し各種Wntリガンドを処理し、分岐形態形成に対する影響及び、2)Wntシグナルによる頂底極性に対する影響を解析した。その結果、Wnt3aの処理によって、分岐形態形成が有意に促進していることを見いだした。また、Wnt3aはβ-カテニン経路を活性化し、遺伝子発現を誘導する代表的リガンドであるが、本系においては標的遺伝子マーカーの発現を誘導しなかった。また、内因性のWntリガンドの作用を解析するため、Wntの分泌阻害剤であるIWP2を処理したところ、分岐が著しく抑制された。さらに、肺上皮組織内における増殖細胞の分布をEduラベル法によって解析したところ、増殖細胞は組織の伸長端(遠位端)に多く、近位に少ないことが分かった。興味深いことに、上皮組織内における頂底極性の状態を解析するため、頂端マーカーであるEzrinで染色すると伸長端においては細胞側底部にも検出された。さらに細胞―基質間接着の強度を活性化型インテグリンを認識する抗体によって解析すると伸長端においてその活性が抑制され、分岐点において活性化していることを見いだした。 本年度の結果より、Wntシグナルがβ-カテニン非依存性経路を介して頂端部の極性状態を制御することにより、細胞―基質間の結合を制御する可能性が示唆された。細胞-基質間接着は細胞分裂期において分裂軸調節に関与し、その角度により分化・未分化の運命が決定されることも知られている。本年度の解析結果は、Wntシグナルを介する細胞運命決定及び増殖の調節機構解明の一助となると考えられ、学術的に意義深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に予定していた解析に関しては概ね終了し、Wntシグナルが組織内において局所的に頂底極性制御を介して細胞-基質間接着を制御することで、増殖・分化状態を制御するという新たな可能性を見いだした点は評価できる。しかし、予定していたWntのリセプターや細胞内因子の発現パターンなど、いくつかの組織染色が抗体の特異性や感度の問題により完結していない。この点を改善するため、レンチウィルスによる発現系を構築した。ウィルスの感染効率は100%ではないが発現させた興味の遺伝子群の局在の検出や活性化を検出する系として使用可能である。また、本年度ではWntシグナルにおいてβ-カテニン非依存性経路が肺の分岐形態形成に関与している可能性を見いだしたが、これによりどのようなリセプターや細胞内シグナルが調節されているのかを明らかにしなければならない状況となった。 以上の事由により上記の評価となった。
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Strategy for Future Research Activity |
Wntリガンドによる分岐形態形成に対する影響は明らかになったが、そのシグナル伝達経路は不明である。この点に対し、レンチウィルスによる発現系や抑制系を用いて既知のシグナル伝達の影響を解析する。一方、未知のリセプターやシグナル伝達の関与の可能性もある。肺上皮組織は要時マウス胎児より調整しサンプルも微量であるため未知のメカニズムを明らかにするためのスクリーニングの系として使用するのは困難である。現在、予備実験の段階ではあるが、培養上皮細胞を用いてWnt3aによる極性化の抑制を検出できる系を見いだしている。本系を用いて、Wnt3aリセプターや下流因子の候補をプロテオミクス解析によりスクリーニングする予定である。また、研究計画記載のとおり、本年度は肺上皮組織における分裂期細胞の分裂軸の変化度や増殖細胞の分布に対するWnt3aの影響を解析する予定である。その際、肺上皮組織は三次元的に分岐するので、当該研究施設の保有する二光子顕微鏡など三次元分解能の高い顕微鏡システムを用いて詳細に解析する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究の遂行に際して、研究費は以下のように使用する予定である。 I. 消耗品; 1)肺上皮組織を摘出するために必要な妊娠マウスやその飼育費用、2)組織及び細胞培養を行うために必要な培地、血清、遺伝子導入試薬、培養皿、3)組織染色や生化学・分子生物学的な解析に必要な試薬及び各種抗体、蛍光試薬や実験器具。 II. 旅費; 本研究の成果発表やディスカッションを行うための学会やミーティングに参加。 III. その他;本研究を遂行するための必要な印刷費、通信費。研究成果発表のために必要な学術論文投稿料や論文別刷代。
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