2012 Fiscal Year Research-status Report
哺乳類の柔軟な性決定機構の進化ー有袋類のオスはどのように遺伝的に決められるのかー
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24770225
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Research Institution | 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター及びライフサイ |
Principal Investigator |
桂 有加子 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター及びライフサイ, 大学共同利用機関等の部局等, 研究員 (00624727)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交換 |
Research Abstract |
本研究では、有袋類のオスがどのように遺伝的に決められるのかについて明らかにすることを目的とする。哺乳類のなかでも初期に分岐した有袋類は、ヒトやマウスなどの系統(真獣類)とは異なる性決定機構をもつ可能性がこれまでの研究により示されている。有袋類を用いた実験・解析により、哺乳類の雄性決定遺伝子(SRY)はいつ、どのようにオス決定の機能を獲得し、進化してきたのか、有袋類独自のオス決定•分化のしくみは何かを明らかにする。そして、哺乳類の柔軟な性決定機構の生物学的意義を進化の視点から理解したい。具体的には、有袋類SRYの分子進化学的解析により、有袋類SRYが真獣類とは異なる機能分化を経て進化してきた可能性を検討する。データ解析により示された系統間で異なるSRYのアミノ酸置換の意義、有袋類SRYがオス決定能をもっているかどうかについて実験的に評価する。 本研究で用いる有袋類は、オーストラリアとアメリカ大陸にのみ生息し、形態的・生理的に独自の進化を遂げた。特に、性分化においては、精巣のホルモンに依存せずにオスは陰嚢、メスは袋・乳腺を獲得する。そのため、本研究で対象としている有袋類のオス決定・分化は進化生物学・生殖生物学の分野においてとても興味深い。 有袋類のオスが遺伝的に決められるしくみがわかると、有袋類独自の性決定機構を説明するだけではなく、哺乳類進化のなかで性決定機構がどのように変化してきたかについて説明する事ができる。また、本研究は遺伝子・生殖・進化と3つの分野をまたがる研究で、新しい学問分野の開拓につながる可能性があり、本研究を通して得られる成果は、「私たちの性の決まる仕組みがどのように発達してきたか」といった社会的にも関心の高い問題に回答を与えることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに以下の4つの解析を行ってきた。それぞれの進捗状況について説明する。 ① 有袋類SRY遺伝子の塩基配列同定:有袋類SRYの塩基配列は、データベースから入手できる種が限られているため、現有の有袋類DNAサンプルを用いて、新たにSRYの塩基配列を周辺領域を含めて同定した。 ② 分子進化学的解析(有袋類と真獣類SRYの進化プロセス):有袋類・真獣類SRYのアミノ酸配列を整列・比較し、系統解析を行い、アミノ酸の置換速度や祖先配列等を推測した。その一部の研究成果をPLoSONE誌に発表した(Katsura & Satta 2012)。また、①の解析から新たに得られた有袋類複数種のSRY遺伝子の配列情報を用いて、有袋類特異的なアミノ酸置換を同定した。これらの結果から、有袋類SRYの機能が真獣類のものと異なる可能性が強く示唆された。以上の研究成果を論文としてまとめる準備を行っている。 ③ 生化学的機能解析(有袋類SRYタンパク質の機能予測・オス決定能の評価):有袋類SRYが真獣類と同様の生化学的特徴をもっているかどうかを生化学的解析(ビアコア、レポーターアッセイ)により調べている。オーストラリアの共同研究者と有袋類SRYの生化学的解析に関する実験計画を話合い、現在、実験に必要なコンストラクトの作成を行っている。また、ビアコアの使用については、総合研究大学院大学で機械の立ち上げを行い、試運転を数回行い、本実験を開始している。 ④ 発現解析(有袋類の精巣発現遺伝子の網羅的同定):次世代シークエンサーを用いたRNA-Seq法により、有袋類2種の精巣・脳に発現する遺伝子を網羅的に同定する。現在までにmRNAを精製し、精巣・脳に発現するmRNAの配列を同定した。先行研究のデータとの比較により、222遺伝子が有袋類に特異的な精巣発現遺伝子であることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、それぞれの研究項目から得られた成果を学会で発表し、論文としてまとめる予定である。 研究目的の③にあげている生化学的機能解析を本年度達成することを目指す。 また、本研究の成果から、有袋類のSRYが真獣類のものと生化学的に機能が異なることが示されたら、有袋類(ワラビー)組織を用いた発現抑制解析により有袋類SRYの機能を調べる事を計画している。ヒトやマウスでは、SRYの発現を低下させると、オスからメスへの性転換がおきることが知られている。有袋類(ワラビー)でSRYの発現をRNA干渉法により低下させたときに、性転換がおきるかどうかを調べる。もし、SRYが性転換を誘導しない、つまり有袋類のSRYがオス決定能をもっていないならば、有袋類は別の雄性決定遺伝子をもつ可能性が高いその場合、有袋類の新たな性決定遺伝子を探索したいと考えている。その他の候補遺伝子の機能を同様の方法により調べ、有袋類の雄性決定遺伝子の同定を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、研究項目③の生化学的機能解析について集中して行う予定である。そのため、オーストラリアの共同研究研究者の研究室に長期滞在し、実験を遂行する必要があるので、科研費の一部を旅費として利用することを計画している。 また、本研究の成果を学会や雑誌で発表するために必要な経費として科研費を利用する事も計画している。
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Research Products
(6 results)