2013 Fiscal Year Research-status Report
進化過程における新規機能遺伝子の誕生~真骨魚類孵化酵素をモデルとして
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24770230
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Research Institution | Josai University |
Principal Investigator |
佐野 香織 城西大学, 理学部, 助手 (70612092)
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Keywords | 機能進化 / 孵化酵素 / ZPタンパク質 / 卵膜 |
Research Abstract |
進化過程において、真骨魚類の孵化は、単一酵素による分解系から2種の酵素による効率の良い分解系へと進化している。真骨魚類の中で初期に分岐したカライワシ類は単一種の孵化酵素を持ち、卵膜を膨潤させることによって孵化を行う。これが祖先型の卵膜分解メカニズムであると考えられる。一方カライワシ類より後期に分岐した正真骨類の魚種は2種類の孵化酵素clade I, clade II酵素をもち孵化時には2種の酵素により卵膜が可溶化される。卵膜分解作用から、2種の酵素による分解系は、単一種の酵素と同様の機能を持つ酵素(祖先型酵素)と新規機能酵素(膨潤卵膜可溶化酵素)よりなることが明らかとなっている。2種類の酵素による分解系では各酵素が卵膜タンパク質(ZPタンパク質)の別々の部位を切断することが分かっており、2種の酵素は特異性がはっきりと分かれている。しかし、正真骨類と側系統的に分岐したもう一方のグループ、ニシン・骨鰾類の魚種はclade I, clade IIの2種類の酵素を持つにもかかわらず、卵膜は膨潤するが可溶化することなく孵化が行われる。またこのグループ内で後期に誕生した魚種はclade Iのみをもち、clade II酵素を失っていることが知られている。そこで、25年度はニシン・骨鰾類に属し、2種の孵化酵素をもつミルクフィッシュにおいて、孵化酵素による卵膜分解メカニズムを明らかとした。(論文審査中)その結果、ニシン・骨鰾類のclade II酵素は、正真骨類のclade II酵素が特異的に切断し、膨潤卵膜を可溶化するキーとなる切断部位に対する活性がないことが分かった。つまり、ニシン・骨鰾類のclade II酵素は卵膜可溶化には不完全な活性を持つ酵素であるということが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
孵化酵素遺伝子の新規機能獲得の分子機構の解明を目指している。つまり、進化の過程で孵化酵素遺伝子のどこに変異が入ったことにより、それぞれの酵素の特異性の変化したのかを明らかにすることを目指している。最終的には、祖先型酵素に変異を入れ、新規機能得酵素の活性を持つ変異酵素の作成を目指す。明らかとなっている孵化酵素の立体構造を基に、孵化酵素遺伝子の様々な領域に変異を入れたリコンビナント孵化酵素を作製し、その活性の変化を比較している。大腸菌を用いたリコンビナント孵化酵素は、当研究室ですでに複数種の孵化酵素を作製して実験に用いており、作製のノウハウは確立している。孵化酵素によってリフォールディングの効率の良し悪しは様々であり、また変異を入れることでその効率が低下することも見られる。そこで、どの魚種の孵化酵素を用いて変異入りのリコンビナント酵素を作製するのを検討した。その結果、clade I, clade IIをもつ正真骨類の魚種から、メダカ、イトヨの孵化酵素遺伝子を用いることとした。現在、いくつかの変異入りリコンビナント孵化酵素が得られており、その活性を比較している。
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Strategy for Future Research Activity |
当研究室で作成された孵化酵素遺伝子の分子系統樹と、25年度までに明らかにした孵化酵素の機能進化の結果をもとに、メダカclade I ,clade II間、イトヨclade I, clade II間のアミノ酸を置換し、基質特異性の変化を期待する。いままでの研究結果から、構造物である卵膜へのアクセス(酵素分子内の卵膜結合部位)と切断部位のアミノ酸の一次構造の認識の両方が孵化酵素の卵膜分解に必要であると考えられている。特異性の変化の観察には、実際の孵化時の基質である卵膜に対する分解作用を比較することと、孵化酵素による切断点のアミノ酸配列から作成した合成ペプチドに対する特異性の変化を同時に測定する。祖先型と同じ卵膜分解の機能を持つclade I酵素に変異を入れてclade II酵素様の活性を持つ酵素、またはその逆のリコンビナント孵化酵素を作製し、最少変異部位を同定する。最終的には、活性に影響を及ぼすアミノ酸残基の変異のタイミングを、孵化酵素分子系統樹と対応させ、新規機能獲得孵化酵素が生じた進化過程を推定する。
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