2012 Fiscal Year Research-status Report
霊長類の胸郭・前肢帯の骨格形態と立体配置:ヒト上科の運動適応の解明
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24770233
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
加賀谷 美幸 広島大学, 医歯薬保健学研究院(医), 特任助教 (50623790)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 肩関節 / 可動域 / 鎖骨 / 体幹 / 進化 / 比較解剖学 / 自然人類学 / 機能形態学 |
Research Abstract |
ヒト上科霊長類は前肢の運動域を拡大する方向へ進化を遂げ、胸郭や前肢帯の骨格形態には種々の特殊化が認められる。胸郭が扁平である、鎖骨が長い等の形質が、肩関節の位置や運動にどのように影響しているか明らかにするため、初年度は主に、マカクザルを対象に実験を行い、生体における前肢帯や胸郭の三次元座標を取得する実験手法を確立させた。本研究によって、関節位置の動態を定量的に記述し、他種との比較を行うことが可能になった。 具体的には、京都大学霊長類研究所のアカゲザルとニホンザルの成体個体を獣医師の協力のもと麻酔し、筋弛緩の状態で寝台に側臥させ、前肢を補助者が最大屈曲位や最大外転位などの任意の位置で固定した。三次元デジタイザにより、肩甲骨の内側縁や肩甲棘、鎖骨、胸骨、上腕骨の内側上顆や外側上顆、脊柱、頭部輪郭などの三次元座標を体表から取得した。ソフトウェア上で各骨格要素の位置を可視化し、分析した。 現段階の予備的な計測では、前肢の自然位において、肩甲骨骨体は正中矢状面に対し30-60 度の角度にあるが、屈曲位では55-95度、外転位では75-105度と、肩甲骨が胸郭の背側に偏位することが観察された。マカクザルでは、肩甲骨の背方移動に伴い、肩関節は外側でなく頭内側に移動した。これは、鎖骨が相対的に短いことと、内外側に狭く、上すぼまりとなっている胸郭上を肩甲骨が滑動することに関係するとみられる。 この手法に基づき、次年度からは他の霊長類種も対象とし、骨格形態と肩関節位置との関係をさらに追求する。これまで報告されたヒト上科化石種の胸郭・前肢帯の形質の意味を再検討し、ヒト上科の独特な運動適応の過程を解明する手がかりとする。胸郭や前肢帯骨格の比較データを多種にわたって収集するため、国内外の研究機関を訪問し、計測を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
麻酔下の生体の体表面からの骨格位置計測については、三次元デジタイザと分析用ソフトウェアを導入し、試計測を繰り返し、手法の確立をほぼ達成できた。現段階で得られた結果は、マカクザルでは、肩甲骨の背方移動に伴い、肩関節は外側でなく頭内側に移動することを示しており、ヒトや類人猿とは異なる前肢帯骨格の運動のようすを、定量的に記録することに成功できたといえる。今後、計測データの本格的な収集を開始する。 また、三次元デジタイザによる計測に並行して実施する予定であった、ビデオカメラによる肢位変化の記録は、あまり効果的でないと判断されたので見送ったが、今後も実験を継続するなかで再検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 麻酔下霊長類の前肢帯骨格可動域の本格的なデータ収集をはじめ、対象種を、マカクザルのほか、オマキザル、ヒヒ、クモザルとし、種間比較を行う。 2. 上記実験の対象個体をCT撮影し、三次元骨格像を得る。1個体につきCT撮影は1回にとどめる。 3. 画像解析ソフトウェア上で骨格要素を切り離し、1)で計測した、屈曲や外転などさまざまな肢位における骨格の位置関係を再現するように再構成を行う。これにより、1)の実験では直接計測できない、肩甲骨関節窩の位置や向きの変化を分析する。 4. 生体の霊長類のほか、液浸標本のCT撮影、骨格標本の観察・計測を通して、霊長類の胸郭と前肢帯骨格の形態変異と機能について理解を深める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
サルの生体計測やCT撮影、標本観察を行うため、京都大学霊長類研究所や他の標本所蔵機関に出張する必要がある。また、計測に必要な麻酔薬や消毒薬等、固定具、消耗品などを購入する予定である。 また、成果発表のため、学会に参加する旅費や論文校閲費を支出する。
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