2012 Fiscal Year Research-status Report
ダイズ根粒菌におけるグルタチオンによる細胞増殖増制御機構の解明
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24780058
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
大津 直子 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (40513437)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 根粒菌 / 細胞増殖 / トランスクリプトーム / グルタチオン |
Research Abstract |
研究代表者はダイズ根粒菌B.japonicumUSDA110よりも増殖が速く、またその根粒は老化が遅く窒素固定能力を高く維持できる変異株を保有している。この変異株は、ダイズとの共生時に発現が変化する転写抑制因子の遺伝子blr7984を破壊することによって創出された。blr7984に隣接するグルタチオントランスフェラーゼの発現が上昇していることから、変異株の表現型とグルタチオンとの関係が示唆されるが未だ不明である。変異株における増殖促進機構を調べるために、対数増殖時の細胞の遺伝子発現を次世代シークエンサーによって野生株と比較する手法をとり、菌体サンプリング時期決定のため、各株の増殖速度、吸光度(OD)、および菌数変化の関係を調べた。 培養時間に伴う菌数の増加は、破壊株の方が明らかに早かった。また破壊株の菌数は培養84時間目をピークにその後減少するが、吸光度は84時間目以降も上昇しており、破壊株から何らかの菌体外物質が産生されていることが示唆された。破壊株は増殖後期以降に粘性が高いことから、菌体外物質は多糖と推定された。また吸光度と菌数の関係式をそれぞれの株について求め、吸光度を測定することにより簡易的に菌数を推定できるようにした。 上記の結果より、菌体サンプリングの時期を、増殖後期でありかつ菌数が1.5~2.0 x 108の範囲になるよう、破壊株は培養48時間目、野生株は培養84時間目とした。これらの時期の細胞は増殖の程度が同様であるので、野生株と破壊株の間では、増殖の速さを制御する遺伝子の発現に違いがあると予想された。採取した菌体から全RNAを抽出しmRNAを精製した。野生株についてはcDNAライブラリーの合成後クラスター形成を行い、Genome Analyzer IIx(Illumina)を用いたシーケンスまで終了した。470万~750万リードという良好な結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
変異株において細胞増殖速度を促進させる分子メカニズムを解明するために、次世代シークエンサーによるトランスクリプトーム解析に取り掛かることができた。まず野生株と変異株についてそれぞれ厳密に増殖速度を調べ、野生株と変異株について増殖の程度(菌数)が同様となる培養時間を決定し、菌体をサンプリングした。そこから抽出したRNAを用いたトランスクリプトーム解析では、まず野生株について良好な結果が得られた。次世代シークエンサーを用いた実験技術は複雑ではあるが、本年度において習得したので、破壊株についても間もなく結果を得ることができる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
野生株についてトランスクリプトーム解析が終了したので、次は変異株について同様のことを行う。そして、野生株の結果と比較することにより、変異株において発現が変化している遺伝子を網羅的に選抜し、個々の遺伝子機能についてデータベースを用いて調べる。それらを機能別にグルーピングしたり、代謝パスウェイマップ上に載せたりすることにより、変異株において細胞増殖を促進する機構を描き出す。 またこの変異株で、変異が入ったblr7984に隣接するグルタチオンSトランスフェラーゼの遺伝子発現が40倍に増加していることから、破壊株の表現型とグルタチオンとの関連が示唆されている。これを検証するために、対数増殖期の細胞中グルタチオン量を測定する。変異株は細胞体積が小さいことがすでに分かっているが、その体積を顕微鏡観察によって正確に測定し、体積当たりのグルタチオン量を求める。そしてこのグルタチオン量測定結果と、トランスクリプトーム解析の結果を突き合わせ、グルタチオンが細胞増殖速度に関与しているかどいうかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
菌体を培養する培地作成のための器具や試薬、RNA抽出や精製のためのキット、グルタチオン測定のための試薬やHPLC付属品等を購入する。また得られた結果を、国内学会(植物微生物研究交流会、9月、愛知)および国際学会(国際窒素固定会議、10月、宮崎)で発表するための旅費に使用する。さらに、論文投稿料や英文校閲料金に使用する。
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